IT(Information Technology)及びICT(Information and Communication Technology)と言っても、通信インフラ、システム設計・開発、ソフトウエア開発、PC・ネットワーク機器の販売、電子商取引(eコマース)やWeb関連サービスなどなど、IT業界の裾野は広く、業界規模を数値化するのは難しい。少し古いデータだが、タイの民間シンクタンク(TDRI)によれば、タイのICT産業の規模は6,269億4,200万バーツ。ちなみに、IT専門調査会社 IDC Japanが発表した2015年の日本の IT市場規模は、14兆7,150億円(成長率0.1%)というから、タイのIT規模はそれほど大きくはない。だが、大手日系IT企業幹部が「タイの成長率は二桁台ですし、タイ政府自体がデジタル・エコノミー政策を打ち出し、国をあげてIT化を進めています」と語る通り、まさに、タイのIT市場は前途有望。事実、タイ暫定政府は実行計画で、ネット利用者とICT産業規模を数年以内に倍増させることを目指し、通信網のインフラ施設の整備・普及、ネットの利用促進を図っている。
日本を抜くスマホ普及率
暫定政府が目下、力を注ぐのがITインフラ、とりわけモバイル通信網の整備。昨年11月と12月に行われた携帯電話の第4世代(4G)サービス向け電波の入札では、 約2,330億バーツという超高額落札となったことは記憶に新しい。それほどまでに、各通信事業社が高速通信のモバイルサービスに躍起になるのには理由がある。国家統計局の調査では、14年のタイのインターネット普及率は34.9%(前年28.9%)と日本の約80%に比べて低いが、着目する点は、接続端末。情報通信技術省(ICT)が所管する電子商取引開発事務局の調査(2014年)では、端末の種類別ネット接続時間は、スマートフォンが1日平均6.6時間と最も長かった。それを裏付ける数字として、スマホの普及率は日本の49.7%(民間調査会社調べ)に対し、タイではすでに58%(米調査会社ニールセン調べ)に達している。結果、タイのIT業界のトレンドは、モバイルバンキング、デジタル広告、eコマース、eペイメントなど、モバイル端末を使ったITサービスの普及が急拡大している。特にeコマース市場は活況を呈し、地元紙の調査では16年には1兆バーツに達する見込みもあるという。
人件費高騰でERP導入メリット増
一方、企業のIT化も進む。タイ国内の通信インフラが整備(通信回線の安定)されることで、企業向けデータセンターサービスも拡大。各企業は、日本本社へのアクセスやインターネット接続の一元化、サーバーやセキュリティ機器の統合管理を目的に活用する。ほかにも、これまではドイツのSAPや米国のオラクルといった世界的に有名な ERP(統合基幹業務システム)パッケージが主流だったが、それなりの投資が必要だった。しかし、昨今では日系IT企業の進出や地元IT企業の台頭で、中小企業向けのERPパッケージのほか、通信インフラの安定を前提としたクラウド型のサービス提供、経営規模に応じた比較的安価なシステム開発を請け負うなど、細かなニーズに対応できる幅広い市場が形成されつつある。何より、こうしたIT事情の先進的な変化は、タイにおける人件費の高騰と相まって、システム導入による、人的ミスの軽減 、コストダウン、生産性の向上といった恩恵を享受できる面が強まっている。今後の企業経営において、事業計画段階からITをどう整備していくかという計画の必要性は高まる。