課題
今や世界有数の産業集積地と化したタイ。ものづくり大国“ニッポン”と評される日系製造業の競争力の秘密は、ニーズ(顧客=発注者)に対する責任感の強さから得る信頼度の高さにある。
日系製造業の生産・製造現場は常に進化し続けている。それは、他社(ライバル)も同じこと。これまで、タイ進出を後押ししたのは、安価な人件費、整備されたインフラ、ハブとしての価値だった。ところが、昨今の人件費の高騰とライバル企業の増加とローカル企業の台頭は、競争環境を一変させた。さらには、タイ経済の成長鈍化のダブルパンチが多くの日系企業を襲っている。辛うじて、営業収益は保っているものの利益率の低下に悩んでいる企業も少なくない。ある日系製造業の幹部は「機械設備を整え、品質面での担保(改善努力)はしてきましたが、顧客からの要望は増えるばかりです」と話す。
また、ある工場管理者は「末端のスタッフまで気が回らず、人的ミスはある一定水準を上下するだけで、なくなりません」とやや諦め気味だ。製品(モノ)は、技術力と機械設備(オートメーション化)で高品質化を達成している。今後、必要なのは、生産・製造工程の自動化ではなく、管理・監督業務の自動化。そこで必要となるのがIT技術によるワンランク上の経営だ。
対策
個々のパソコンをインターネットや社内ネットワークで結び、日々の情報共有はメール、在庫・原価・進捗・納期・勤怠・支出入といった情報管理はExcelでといった会社は多い。ウン十年前から比べればこれもIT化だ。だが、前述してきた課題を解決するには足りない。
情報漏えいが社会的信用を失墜
顧客への賠償、経営持続困難にも
ネットワークで結ばれることで、社員同士の情報共有が図れ、業務効率は高まる。また、終わらない仕事を自宅に持ち帰るといった考えも浮かぶ。すべてはIT(便利)が生んだ新たな選択肢だ。反面、当然ながら社内の機密情報を持ち帰り他社に渡る、あるいは不正かつ、有害な動作を意図的にさせるマルウエアに感染し、本人の意図に反して漏えいしてしまうリスクが生まれた(後者は社内からの悪質なサイトへのアクセスでも感染)。
仮に、機密情報が漏えいすると、取引先や顧客への謝罪や補償などが生じ、何より、企業の社会的信用を失うことにつながる。信頼失墜はビジネス機会の損失に直結するだけに、どうしても防ぎたい。そこで、重要となるのがITコンプライアンスだ。
ところが、コンピューターやインターネット用のセキュリティソフト大手社員が「日本では専門のI T 管理者が置かれ、日々の業務としていますが、多くの在タイ日系企業にはいません。多少、IT事情に詳しいローカルスタッフ、もしくは日本人駐在員が兼務する程度です」と話す通り、本来であれば、専門職が必要なほど重要な業務であるにも関わらず希薄な認識が根強いのが現実だ。
コンプライアンス遵守。法律違反で即取引停止も
前述のセキュリティソフト会社によれば、タイでは違法ソフトが街なかで簡単に購入でき、知らずに社内の担当者が購入、または、違法ソフト販売者と結託して、社内に導入していることもあるという。ただ、多くの大手メーカーでは、調達基本方針があり、取引するサプライヤーには法律や規律など、コンプライアンスの遵守を義務付けている。例え、管理者(日本人駐在員)が知らずとも、取引相手には関係なく、コンプライアンスが守られていないことがわかれば、即取引停止にもつながる。
だからこそ、日本と同様に、タイでも犯罪を未然に防ぐためにソフトウエアの資産管理が重要になる。
とはいえ、ソフトウエアライセンスは、メーカーやソフトウエアごとに、基本ライセンスの考え方や付帯契約、販売形態などが異なり、多種多様。そのため、担当者には、複雑な管理が強いられ、兼務や多少のITリテラシーを持ったスタッフでは、心もとないというのが現実だ。
後は、専門会社に依頼、もしくは専門スタッフを雇用することになる。それが、会社を守る最善の方法と言えよう。