もっと着物が好きになる
“和”を提案する着付け教室


凛とした面持ちに、スッと天に向かうように伸びた背筋。ドキリ、とこちらが
構えた次の瞬間に飛び出す、気さくな笑顔が魅力的な来住ゆかさん。
「着物でタイを歩いてみない?」と軽やかに、その可能性を教えてくれます。

 

「ほら、肩が丸まっているわよ」。生徒との談笑中に姿勢が悪くなるとすかさず入るひと言。着物を着て終わりではなく、“着物に負けない”佇まいと振る舞いを身につけて欲しいと考えるのが、着付け教室「サイアム和装」を運営する来住(きし)ゆかさんです。

生まれは、奈良・吉野。幼い頃から、着物を着る環境が周りにあったのだそう。そんな来住さんが教室を正式に立ち上げようと決めたのは、昨年1月。「海外にいるから着物を着るタイミングがない、着付けを覚えたいけれど海外では習う場所がない」……そんな人たちに対して何か出来ないかと思うようになったのが、きっかけでした。

旦那さんの仕事の関係でタイに来たのは21年前。当時は、着付け教室を始めるとは思っていなかったそうですが、いざスタートしたら、今では毎日が教室を中心に回っているのだそう。

オープン当初、一日中立ちっぱなしのレッスンの連続に体力が必要だと痛感し、すぐに筋トレを開始します。

「しっかりと着付けの基礎を伝えるために、自分自身に体力が必要だと感じました。今では、食事にも気を付けるようになりましたね。私が体調を崩したら、大好きな生徒さんに申し訳ないですから」。

そんな来住さんがこだわる、着付けの作法とは……?

家族の次に大切だと思える
生徒との出逢いが、何よりの宝

「始めるからには、“和の心”を伝えたかった」。そう話す来住さんの教室には、吉野のヒノキやヒバの香りが漂う日本直輸入の特注、4畳半の組み立て式和室と着付けスペースの畳があります。

「1畳分のスペースで、着付ける順番に帯や道具をきちんと並べておくことも重要な作法のひとつ。それが、“気遣い”に繋がります」と来住さんは言います。着付け後には、和室で立ち居振る舞いを実践。形だけではなく、実際に“着こなす”ことに重きを置いているのです。

時には、レッスン後にそのまま外へ出て食事会をすることも。

「どんどん外に出てほしいなと思うので、着物姿でそのまま帰るように薦めることもあります。歩く時、座る時、食べる時……TPOに合わせた振る舞いを日常の中で伝えていきたいです。コーディネートとしては、日本食では器の邪魔にならないような着物を選ぶのがマナーですが、逆にフレンチやイタリアンでは色で遊んだりカジュアルな着こなしに挑戦したり、その時々に合わせた楽しみ方を知ってもらえるのが目標ですね」。

自身が教える立場にありながら、生徒に教わっていることも多いという来住さん。毎回、稽古で使う着物と帯は生徒に選んでもらっていると言い、「私では思いつかない柄や色の組み合わせにハッとさせられます」と笑います。

「着物を日常にもっと取り入れてほしい、という想いはもちろんですが、教室を介して家族の次に大事だと思える生徒さんたちに出逢えたのが何よりの宝です。10年後でも20年後でも、着物を着て集まれたらそれだけでうれしいですね」。

そう生徒との繋がりを楽しそうに話す来住さんが思い描くのは、着付け教室に加えて和菓子、琴、香道……と、“和”にまつわるひとつのサロン。着付けや国籍を越えた交流の場として、新たな歩みを進めていきます。

スクンビット23にある教室では、一回につき4人前後の生徒が集まる少人数制


PROFILE
来住 ゆか Yuka Kishi
1963年、奈良生まれ。96年、旦那さんの駐在とともに来タイ。幼少期から着物に触れ合い、2016年1月に着付け教室「サイアム和装」を設立。ふたりの子どもを持つ4人家族。タイの好きなところは日本と同じ仏教国であり穏やかなところ。リフレッシュ方法はジムで汗を流すこと。

 


サイアム和装

スクンビット・ソイ23の着付け教室(レンタル衣装あり)

月火木金土にレッスンを開催中(着物貸出あり)。クラスは1回90分〜。一般コース初級月3回/3,000B、復習コース中級/1回1,200B、特別コース1回2,000B。
[問い合わせ]
Tel: 089-223-9538(日本語)
E-Mail: yuka.kishi@siamwasou.com
Website: www.siamwasou.net


編集部より
凛とした表情、慎ましやかな佇まいから一転、裏表なく快活に話してくれる関西人の一面がとても魅力的。時に厳しく、時にやさしく、来住先生の明るい人柄に、引き寄せられている生徒さんも多いのだろうと感じました(M)

取材・文 山形 美郷


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