新アユタヤ銀行として打って出る
法人部門長(日系統括責任者) 三石 基
《プロフィール》
1963年生まれ。東京都出身。87年東京大学卒業、同年三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。ニューヨーク支店、人事部、国際企画部などを経て、2012年5月バンコック支店長、2015年1月より現職。
準備は整いました。新アユタヤ銀行として打って出ていきます
―統合し、新たなスタートとなりました
三菱東京UFJ銀行バンコック支店630人に対して、アユタヤ銀行は2万人ですから、比較にならないほどの大所帯です。2013年12月にアユタヤ銀行に出資してから、統合までの約1年。システムから組織に至るまで、名実ともにひとつになりました。
―これからはフルスロットルというわけですね
かつてのバンコック支店の業務は、日系企業がタイに進出し、完成品を輸出するというビジネスモデルを中心にサポートしてきました。
ところが、最近では製造したモノをタイ国内で販売する、いわゆるタイを消費市場と位置付ける日系企業や、海外へ進出するタイ企業も現れ始めたのです。事業を高度化させる企業が増えたことで、決済の充実や従業員向けサービスなど多岐に渡るご要望を頂戴するようになりました。
必要なのは地場に根づいたサービス。今後は、日系企業のニーズにお応えするには、地場の代理店やディーラー、小売店、消費者のサポートも求められます。そういった意味で全国に支店網を持つアユタヤ銀行とのシナジー効果は計り知れません。総合的な商業銀行のプラットフォームを手に入れることができたわけです。
―上位4行との差異化は
日系の銀行であるという強みですね。ご存知の通り、タイは親日国家です。街なかには日本食レストランが立ち並び、日本への関心が高まっています。銀行ATMの操作も日本語でできるほどです。この距離感の近さは、他国にはないでしょう。
BTMUにとって、タイはセカンドホームと位置付けています。また、タイミングとして、AEC(ASEAN経済共同体)発足を控えているなかでスタートする意味は大きいでしょう。企業の活動の場が、タイから近隣諸国へと広がれば、「ハブとなるタイに広範なネットワークを有していること」が強みとなります。
加えて、日本企業の海外進出をサポートし続けてきた弊行の経験は、タイから他国へ進出する企業に対して必ず生かせると思います。
先日、BTMUがミャンマーでの支店開設のライセンスを得ました。アユタヤ銀行も緊密に連携していきます。メコンがひとつの大経済圏になろうとするなかで、各国に拠点を持っていることが必ず強みとなってきます。
―バンコック支店長から通算してタイは3年目と聞きました
もうすぐ丸3年です。ただし、環境的には時計の針を戻された感覚です。入行してから、1996年に三菱銀行と東京銀行、2006年に東京三菱銀行とUFJ銀行の合併があり、今回で3度目の合併・統合の経験となります。
これまでも、合併の度に、人との出会いがあり新鮮な気持ちで業務に取り組んできました。まずは、アユタヤ銀行がお客様とともに更に成長するためにどうしたら良いか、色々チャレンジしていきたいです。
―630人から2万人という大所帯はいかがですか
アユタヤ銀行の幹部と話をしていると、まるで昔から知り合いだったような気がしています。うれしかったのは、統合までの道のりを含め、互いに向いている方向性が一緒だったという点です。合併というのは企業文化のぶつかり合いです。案ずるより産むが易し。
今後もいろいろと課題があると思いますが、この一年でもそうであったように、一つひとつ乗り超えていきます。
―新アユタヤ銀行のマネジメントメンバーとしての責任は
タイ政府から特例として、外資規制(出資比率49%まで)をクリアさせていただいたことは、それだけ期待されているという証拠であり、ビジネスを通じてタイ社会へも貢献していくことが求められていると認識しています。
とにかく、我々はチャレンジャーですから、タイにおけるすべてのお客様に対し、今まで以上に工夫を重ね、期待にお応えできるよう、努力していきます。
―2015年は、大きな船出となりましたね
地場銀行として生まれ変わり、サービスも増えましたのでお客様に一層よろこんでいただける年にしたいです。すでに、統合前からご相談を受けていた日系企業様の従業員の口座開設の話もあり、これまで出来なかったこと、考えもつかなかったサービスを提供できるようになりました。
今後は、アユタヤ銀行として日本を含めた、外国の企業のタイ投資への呼び水としての役割も果たしていきたいと思います。1年間の統合期間を経て、準備は整いましたので、これからは打って出ていきます。
編集後記
新アユタヤ銀行がスタートを切った。狙うは、タイで4大銀行と呼ばれる、クルンタイ銀行、サイアム商業銀行、バンコク銀行、カシコン銀行の上位4行への仲間入り。新アユタヤ銀行では日系企業への融資のほか、従業員の口座開設など利便性は高まる。三石氏の「BTMUにとってタイはセカンドホーム」からも本気度が伺える。タイが親日国であることも追い風となるだろう。3度目の合併経験となったその顔からは、経験に裏打ちされた自信と挑戦者としての高揚感が溢れていた。(北川 宏)