創業から2年で緑茶飲料市場首位に
CEO タン・パーサコンナティー
《プロフィール》
1959年、タイで生まれマレーシアで育つ。中学時代にタイに戻り事業を開始。1999年、日本食レストラン1号店を出店し、成功を収める。2004年、それまでタイに市場が存在しなかった緑茶飲料会社「OISHI」を創業。同年上場するも、08年、所有株の大半をアルコール飲料最大手のタイ・ビバレッジに売却。10年、「イチタン」ブランドで再度緑茶市場に進出する。
“人の役に立つビジネス” こそが、私の信念であり経営理念
—業績が好調のようですね。
今年の夏(3月〜5月)が暑かったこと、同時期に展開したキャンペーンの成功、そして、新商品「イエンイエン」が売れているおかげです。 イエンイエンに関しては生産ラインを新設して増産体制を整えている最中です。昨夏のキャンペーンの効果もあり、昨年10月からシェア1位を確保しています。—近い将来、アユタヤ工場だけでは手狭になるのではないですか?
現在、隣に第2工場を建設中で、完成すれば7万㎡の規模となります。 最近、70ライ(1ライ=約1600㎡)の土地も購入したので、将来的に必要であれば、さらなる設備投資は可能です。目標である売上高100億バーツに向け、準備は万全です。—将来を見越した投資というわけですね。
工場拡大のために土地を購入しましたが、マーケットの拡大スピードはそれ以上に早く、資金投資はまだまだ必要です。 将来的な主戦場は国内に留まらず、海外へと移っていくでしょう。そうなれば、輸入・輸出など海外のパートナーと手を組むことになります。 そのためにも、今年中には上場できるよう準備を進めています。消費者、投資家、海外企業からの信頼を得ることが、イチタンのさらなる飛躍につながるのです。—売上を伸ばし続けるには、市場の開拓も重要だと思います。
飲料全体の市場規模(2012年)は、約1600億バーツあり、そのうち炭酸飲料が400億バーツ、緑茶飲料は120億バーツ程度です。 ベトナムでは炭酸よりも緑茶の市場規模の方が大きく、タイの飲料市場でも10年以内に炭酸を超えると思います。—緑茶ビジネスで海外に打って出るということですか。
特に2015年のAEC(ASEAN経済共同体)が発足すれば、ベトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマーなど、すべてのAEC加盟国がマーケットになるのですから、今から準備を進めるのは当然ですよ。ご存知でしょうが、イチタンは、ラオス、カンボジア、ミャンマーに続いて、年末までに、ベトナムへ進出する予定です。—御社のビジネスモデルだと単独ではなく、パートナーを探すわけですね。
そのとおりです。できれば、日本企業と提携したいですね。 私は日本人、ひいては日本の経営手法を尊敬しています。工場の設備もすべて日本製です。 グループであるバンコクのレストラン、チェンマイやミャンマーのホテル運営では、日本人のパートナーと一緒に手掛けています。 ベトナム進出も、日本人もしくは日系企業とパートナーシップを図りたいと考えています。—国内市場は、タン社長が創業し、現在では最大のライバル「OISHI」と競争が加熱しているようですが……
OISHIはタイ・ビバレッジの飲料部門のひとつです。企業規模が違い過ぎますよ。なにより、目指している方向性や企業理念が異なります。イチタンという会社は、私と約100人の従業員のものです。当社は社員持株制度を導入しています。そうすることで、社員全員の意志を統一することができます。私はOISHIでは実現できなかった、社員全員がパートナーとして、ファミリーのような企業を目指しているのです。
—上場すれば、会社は投資家(株主)のものとなりますが?
現在、イチタンの株は私が50%持ち、残り半分は社員が保有しています。IPOで販売する株は新株となります。そもそも、イチタンという会社は私のものではありません。上場後、私の保有株で得た配当や利益の90%は財団に寄付するつもりです。 企業にとって、業績を伸ばすことは至上命題ですが、私にとってのビジネスは、多くの困っている人たちに還元するための手段です。
—転職が当たり前のタイでは、珍しい経営理念ですね。
企業にとって最大のリスクは人材流出です。イチタンは新商品と人材で伸びてきた会社です。 正直、緑茶飲料ビジネスは設備を整えれば誰でもできます。なにより、会社を長期間、安定的に運営させるには優秀な人材の確保が重要です。タイでは、仕事内容よりも今以上に高給な会社を選ぶ傾向が強いのですが、私は日本の終身雇用の考え方が好きです。 だからこそ、社員持株制度を導入したのです。株を保有することで、社員一人ひとりに責任感が芽生え、経営者意識が生まれます。すると、目標達成に向けて自ら考え、行動(努力)するはずです。 意識の高まりは社員の底上げにつながり、業績にも影響します。結果を出せば、自らに還元されるという体験が、好循環を生み、人材流出を防げるのです。
PRで最も重要な点は、 商品力以上にブランディング
—なぜ、イチタンのお茶はこれほど売れるのでしょうか?
商品PRで最も重要な点は、ブランディングです。正直、美味しさとは曖昧なものだと思っています。例えば、好きな人のオナラなら平気でしょ? 当社を好きな人がイチタンの緑茶を飲めば少なからず、美味しいと思うはずです。逆もしかりです。 私がビジネスをする上で、最初に手がけるのがブランディングです。資金のない頃、自分を広告塔にしました。おかげで、私の顔を見れば、イチタンブランドだと認識する人が増えました。ちなみに、フェイスブックのフォロワーは300万人を超えています。
—芸能人でもないタンさんが広告塔として消費者に受け入れられる理由を教えてください。
これは一つの例えですが、現在の場所で工場を稼働させたばかりの2011年に、当社は洪水被害に遭いました。 普通なら、ショックで立ち直れないでしょう。ですが、私は諦めず工場に寝泊まりして復旧作業に当たりました。同時に被災地への寄付やボランティア活動にも力を注ぎました。 すると、そうした行動が徐々に話題となり、ニュースで流されるようになりました。 つまり、私のイメージが良くなることが、商品のブランド力につながったというわけです。—タン社長のエネルギーはどこから湧いてくるのですか?
それは、すべて自分次第ですよ。常に前向きな姿勢でいることです。 悪いイメージを持ってしまえば、力もやる気も失ってしまいます。私は、いま幸せです。なぜなら、明確な目標があるからです。私は、幼い頃に家が貧しかったことで、勉強するチャンスを得られませんでした。それでも私は夢や目標を描くことで、ここまでやって来れたのです。人は国の財産です。だからこそ、夢を抱く未来の宝(子ども)に、そのチャンスを与えたいと「1万人の奨学金」プロジェクトをはじめました。—今後の目標を教えてください。
ビジネスで利益を上げ、投資家、社員、財団に利益を配分することです。個人としては、前述した奨学金と10万本の植林プロジェクトの完遂ですね。“人の役に立つことを行う”こそが、私の信念であり、経営理念なのです。
ICHITAN(イチタン)グループ 緑茶飲料会社。2010年9月に緑茶飲料大手「OISHI」の元社長がICHITANの前身「Mai−Tan(マイタン)」を創業し、緑茶飲料「ICHITAN Organic Green Tea 100%」を販売。13年3月には、「タンと一緒に食べましょう」という意味を込めたレストラン運営会社「ギン・カップ・タン」を設立。今年7月、イチタングループとして、タイ証券取引所(SET)へ上場申請を行い、12月に新規株式公開(IPO)を予定する。