ときには本名よりも重要なタイ人のニックネーム。
その付け方には時代によってトレンドがあるが……。
3人兄弟に、ノキア、アイフォン、モバイル。日本のアニメにちなんで、チョッパー、セイヤ。タイ人のニックネームに今、興味深いトレンドの風が吹き始めている。
非常に長い本名を持つタイ人は、親から短いニックネームを与えられるのが通例だ。学校や職場ではニックネームで呼び合い、本名を名乗るのはフォーマルな場に限られる。長い付き合いの親友同士であっても、互いの本名を知らないのは当たり前で、日本人のニックネームに比べるとその重要性は大きく異なると考えていい。
名付け方には時代によってトレンドが見られ、20〜30代に多いのはオード(おたまじゃくし)、ジョー(カンガルー)、ペン(月)、ジアップ(ひよこ)。中学生くらいの世代からウィン(勝利)、マインド(心)、アーム(武器)、サン(息子)、アイス(氷)など英語を用いたものが目立つようになるが、シンプルな単語が好まれるのはながらく変わらなかった。
ところが最近は、若い世代の親が競い合うようにして珍しさを追い求めている。急速に発展したIT文化を象徴するようにケータイ関連のニックネームにしたり、流行りの日本アニメから取ったりと、その元ネタに制限はないらしい。
本名の付け方の変化も、このブームを後押ししている。ただでさえ長い本名をさらに複雑に、さらに豪華にしたがる親が増え、それに負けないだけのインパクトがニックネームにも求められるようになったのだ。
しかし、ビアー、タイ、トラー、シン(つなげて読むとシンハービール)のニックネームを与えられた4人兄弟は周りに笑われないかと心配になってしまうし、メーデー(労働者の日)、ステロイド(筋肉増強剤)、ログイン(電子認証)になってくると、ヒネっているのか適当なのかさえよくわからない。
このあたり、日本のキラキラネーム事情によく似ている。炎皇斗と書いて「かおす」、本気と書いて「まじ」など、まさかと思うような名前の子どもが増えており、しばしば議論を巻き起こすようになった。タイ人のニックネームもこれから、ますます刺激的な方向へ向かっていくのだろうか。