軍政から民政を勝ち取ったミャンマーからの来訪者。プラユット暫定首相と会談
「お母様は希望です。早く祖国に帰れるようにミャンマーを発展させてください」。
これは、6月23〜25日で、タイを訪れていたミャンマーのアウンサンスーチー国家顧問に対し、在タイミャンマー人出稼ぎ労働者らが贈った言葉だ。タイには、数百万人に及ぶミャンマー人が住んでいると言われ、その多くが労働目的、いわゆる出稼ぎ。なかには不法就労のため劣悪な環境下で労働を強いられている者もいて、タイの対ミャンマー国境付近には約12万人のミャンマー難民がキャンプ暮らしをしている。そのため、今回のスーチー国家顧問の訪タイ目的は、ミャンマー人出稼ぎ労働者の待遇改善と難民者帰還への道筋についてだった。
かつてビルマと呼ばれた同国の民政移管は2011年と日が浅く、それまでは軍事政権の圧政により、国民の自由と経済が著しく制限されていた。だからこそ、早くから民主化を目指し、政権移譲を果たしたスーチー現国家顧問が率いた国民民主連盟(NLD)への期待は大きく、スーチー氏の人気もゆるぎない。
前回の訪問時は、民政移管直後の12年。野党第一党党首だったため、「我慢してください」とミャンマー人に投げかけるしかできなかったが、今回は違う。「問題があるのならば、話し合わなければならない」とミャンマーの最高責任者として自ら解決する意思表示は、出稼ぎ労働者にとって、祖国に戻れる日を願う希望に映ったであろう。
とはいえ、タイでは人件費が高騰し、建設現場や漁業などの過酷な単純労働者の多くが、ミャンマーなど隣国からの出稼ぎ労働者に頼っている。ただでさえ、人手不足とされるタイがそう簡単に安価な労働力を手放すとも思えない。
前回は民政のインラック首相と会談したスーチー顧問だが、今回は皮肉にも軍政のプラユット暫定首相がお相手。悲願の民政移管を遂げてトップとなった同顧問だけに、複雑な心境だったかもしれない。会談では、両国の経済協力や労働者への待遇改善など幅広い分野で意見交換し、今後の協力を約束したものの、具体的な労働環境の改善や難民問題解決に向けた道筋までには至らなかったという。