タイ経済は踊り場だが、進出市場はまだあります
マネージングダイレクター 岡崎 啓一
《プロフィール》
おかざき けいいち
■1997年野村総合研究所入社。入社来、製造業向けコンサル一筋で、2016年から現職。
■座右の銘:為せばなる、為さればならぬ何事も
■趣味:競馬・麻雀
■尊敬する人物:山本五十六
■バンコクの行きつけの店:素屋49
■愛用の腕時計:SEIKO CREDOR
■愛用の鞄:Samsonite
■休日の過ごし方:今は、主に資料作りに追われる
事業領域を教えてください
コンサルティングとシステム開発・運用支援の2本柱です。元々は業務ごとに独立色が強かったのですが、日本でも最近連携案件が増えてきています。タイでもその流れを汲んで、案件ベースでの協業しつつ、事業拡大に努めています。私は元々コンサルの出身。タイでのコンサル事業は、在タイ日本大使館や日系の行政絡みの仕事と、民間企業からのユーザー動向や企業分析が多いですね。
米国の次期大統領にトランプ氏が決まったので、今後どうなるかは不透明となりましたが、大使館からは、TPPにタイが加盟した際、金融、流通、製造業など産業別にどういったインパクトがあるかの考察レポートといった仕事を受注しています。前任者は、公共や金融が専門だったので、両分野の基盤は構築できました。これからのミッションは、日系企業にとってのタイでの本丸(製造業)に力を注ぐつもりです。
個人的にも、製造業を専門に約20年にわたって携わってきたので、得意分野である製造分野の基盤を構築していきたいと思います。先ずは、タイの製造業でどういったコンサルビジネスのマーケット(将来性)があるかを見定めている状況です。
現状では、どういったマーケットに映っていますか
ご存知の通り、これまでのタイの製造業は、土地と比較的安価な労働力、整備されたインフラ基盤を提供することで発展してきました。ところが、マクロ的にみても、タイは少子高齢化が進み、労働力が不足。現状は陸続きの周辺国からの単純労働者の流動を受け入れ、支えられています。しかし、AEC発足により、周辺国が成長すれば、労働者は自国へと戻るでしょう。
すでに成長率も鈍化し、製造業においては隣国へ単純労働分野を移管する分業を検討している企業もあります。つまりは、景気の踊り場を迎えているんですね。もっとも大きなポイントは、タイのマーケットは成熟のタイミングに差し掛かっているにも関わらず、先進国に比べ規模は小さく、ビジネスのメカニズムやモデルが新興国向けというアンバランスな状態に陥っていると言ってもいいでしょう。
成長モデルからの転換を迫まられているわけですね
その通りです。少し古い言葉ですが、タイ+1という枠組みの中で、本気でタイを中心としたビジネスモデルや経営システムを作り上げる検討が必要です。(タイが)起点になれなければ、リストラやアセットライトといった方向に舵を切らざるをえないでしょう。
ただし、一度でも資産を圧縮してしまうと、その後はどうしても、事業としても縮小均衡となってしまいます。だからこそ、アセットを地域単位(AEC域内)で共有できる、例えば、頭脳(R&Dや生産技術)をタイで一層育成し、マザー工場として機能させることを通じて、周辺国にその知見を移転する。これまで日本が品質保証の拠点でしたが、日本に送って検査するような非効率を避け、品質管理をタイで行えるようになれば、AEC全体で完結できる新たなビジネスモデルが完成します。
タイ進出のメリットは縮小しているのでしょうか
非製造業で言えば、答えはノーです。タイの市場は、まだまだ流通系が脆弱です。コンビニエンスストアは浸透していますが、ドラッグストアや専門店のチェーンなど、日系企業にとってオープンウィンドウな分野が多々あります。末端のチェーン店の進出が増えれば、中間流通業者(仲卸し)のビジネスチャンスも広がるでしょう。同時に周辺国の市場が成長すれば、モノの流れも増え、物流企業にとってもチャンスは増大します。
ほかにも、インフラ系では、非基幹系電力です。風力、太陽光といった自然エネルギーや再生エネルギーの分野は、日系企業にとって参入チャンスはありますよ。
赴任は、まだ数ヵ月と聞きました05
人事発令は4月に降りていましたが、正式に拠点長になったのは8月後半です。まったく異なるビジネスユニットが並行している会社なので、マネジメントにも力を注ぐつもりで、日々、会社のメニューを頭に叩き込みつつ、将来のビジョンを固めている感じです。
組織としては、末端、中間、トップ層のヒエラルキー構造をきれいにしたいと考えています。現状はいびつな三角形なので、健全な形となるべく、中間層の育成が必要だと感じています。ざっくりですが業績目標は3年で3倍を掲げました。
編集後記
シンクタンクとSI企業の2面性を持つ「野村総合研究所」。政府や行政のほか、企業にとっては、今後の舵取りを担うための羅針盤として、課題解決策を求めるときもある。タイ進出は2013年と早くはないが、岡崎氏が「踊り場を迎えている」と表現する通り、方向性を示す指標が求められるのはこれから。タイ進出企業にとって“製造業”の行く末を案じる人は多い。プロフェッショナルをトップに据えた同社の意気込みを感じる。(北)