タイ菓子の物語をひも解く 編集者・コラムニスト

「タイのお菓子は二度おいしい」ーーータイ国日本人会の会報誌
『クルンテープ』内で、タイ菓子についての連載を持つ小河修子さん。
そこから見えてきたのは、時代も国も飛び越えた壮大な物語でした。

「タイのお菓子なら紹介できます」。小河さんがそう提案し、連載が始まったのは2014年のこと。業務として請け負っていた日本人会の月刊会報誌『クルンテープ』内で何か連載ができないかと相談され、書き始めたものでした。

娘さんが授業で習って教えてくれたという“ラマ2世が詠まれたお菓子の詩”をきっかけに、タイ菓子について調べるようになったという小河さん。さまざまなタイ菓子を通して意中の相手に想いを伝えるその表現方法と共に、興味が湧いたのだそう。

「タイのお菓子は、調べれば調べるほど興味深くて。例えば、ポルトガルから伝わった焼き菓子『カノム・ファラン・グティージーン』は、長崎カステラの老舗がかつて使っていた焼き釜と同じ道具(日本では「引き釜」という)を使っていたり。そういった繋がりを一つひとつ、追いかけるようになっていったんです」。

日本との接点や他国との関連性、伝播の流れ……縦軸(時代)も横軸(国)も飛び越えた背景が、面白くて堪らない。そんな気持ちが、瞳から溢れています。

小河さんは、30年ほど前に初めてタイを訪れ、その発展途上の様子に刺激を受けて以来、毎年タイを訪問。それでも興味は尽きず、東京外国語大学タイ語学科の聴講生になり、29歳で移住を決意。

「フリーランスとして、ミャンマーとの国境沿いにある難民キャンプを取材するなど、特別な経験をさせてもらいました」と当時を振り返ります。3年を経て帰国後は、タイで出会ったタイ人男性と結婚・出産。そして2002年。二度目のタイ移住で、タイ菓子に魅了されていくのでした。

受け継ぐ人がいない今、
私がその役割を担えたら

色鮮やかなタイ菓子に昔から使われてきたのは、植物性の天然着色料。巷には合成着色料のお菓子も多く出回っていますが、昔からの知恵と技術を受け継ぎ実直に作られたタイ菓子と、そこから広がる文化に興味を持ってもらえれば、と願う小河さん。

コラムで紹介するのは、タイ古来のもの、歴史や文化が見えるもの、自分自身が興味を持ったもの。そして、コラムを読んだ人が「食べてみたい」と思った時に、手に入りやすいもの。

「もし興味を持った時に、口にできないのは悲しいですから。ただ、どうしても紹介したい場合は、過去の販売店を探し出して特別に作って頂いたり、タイの料理家さんを訪ねて作って頂くこともあります。そんなエピソードを含め、作り手の想いやお菓子が誕生した歴史、物語を伝えていきたいんです」。

今年5月で43回目を迎える連載。目指すのは“軽やかに、深く”。「歴史や文化を含めたタイのお菓子紹介コラムと言っても、教科書ではありません。伝えたい情報はたくさんありますが、固くなりすぎず、深みを持たせながら軽やかに、気楽に読めるようにと心がけています」。

連載が続く一方で、タイ菓子は今、後継者不足という問題を抱えています。そんな状況を見て小河さんは、自分がどうにか受け継げないかと模索中。

「連載をきっかけに、多くのタイ菓子と作り手の方々に出逢い、いつの間にか私の人生の中で“タイ菓子”というテーマが大きな存在になっていました。まだまだ紹介したいお菓子は山ほどありますし、何らかの形で、作り方も一緒に残していければ」と控えめに宣言。伝える側から、受け継ぐ側へ。時空を越えたタイ菓子の物語は、これからも続いていくのです。


連載の初回を飾った「カノム・ナムドークマイ」。小河さんは“可憐な米粉のお菓子”と表現


PROFILE
ムシカシントーン小河修子
Shuko Ogawa
1959年、福島生まれ。編集プロダクション「Plant Planet Co.,Ltd.」代表として編集業を請け負いながら、ジャーナリストとして活動。日本人会発行誌『クルンテープ』の編集作業を担当しながら、タイ菓子のコラムを執筆中。好きなお菓子は、心で時を旅するお菓子(フォイトーンやカノム・マッサゴートなど)。

 


Plant Planet Co., Ltd.

主な著作はこちら

『フォトジャーナリスト吉田ルイ子』(理論社)、『象使いの少年 スッジャイとディオ』『月刊たくさんのふしぎ』(福音館書店)など。現在、北タイ山地民の子弟の教育支援活動に長年取り組んできたNGOによる、有機栽培コーヒーの取材を開始。タイ菓子を目と舌で味わう、お菓子付き写真展を模索中。

[問い合わせ]
Email:plantplanet60@gmail.com


編集部より
まるで当時のタイに生きていたのでは。そう思うくらい鮮明に、こと細かに話してくれた小河さん。まだまだ聞きたい、と思っていたのに時間切れなのが悔やまれます。また次回、ぜひ続きを聞かせてください


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