2016年の伊勢志摩サミットの開催が決定した三重県。世界中からの注目年を前に、鈴木英敬知事が来タイ。タイとの産業連携のほか、県産品の輸出拡大や観光客の呼び込みに向けたトップセールスを行った。訪問中には三重を代表する食品加工メーカー「ヤマモリ」のタイ進出20周年記念パーティにも出席。遠い異国の地で、三重が誇る食と観光をテーマに対談した。
―ヤマモリ販売会社のタイ進出20周年パーティに知事も出席され、両者で三重をPRしましたね
【三林】 はじめて訪れた海外がタイという縁もあります。27年前ですね。当時は、いま以上にアグレッシブさがあり、「これから成長するぞ」という雰囲気が国全体から感じられました。振り返ればその時の気候、風土、食文化も含め、古き良き日本の姿が私を突き動かしたのではないかと思います。その後は合弁会社として、タイでのビジネスを開始し、1995年に販売会社ヤマモリトレーディングを設立したわけです。
【鈴木】 昨日(11月20日)のパーティに参加し、そうそうたる顔ぶれに進出20年で勝ち得た信頼感だと痛感しました。また、三重では外資系企業誘致も積極的に行っています。結果、津市に半導体及び各種基盤向け研磨剤を製造する米国のキャボット・マイクロエレクトロニクスが進出しました。聞くと、「三重県の風土や職員の気質が好きで、なんとなく進出したんです」と答えたのを思い出しましたね。どれだけ論理的にコストや採算性を考えても、多少の差であれば、好きな場所を選ぶはずです。最終的な判断は、トップとしての直感も重要となるのではないでしょうか。一長一短でビジネスはできませんので、定着するには、地元から信頼を得なければなりません。ヤマモリが三重県からタイへ進出し、地元から認められたことは知事としても誇りです。
―タイには多くの日系企業が進出しています。三重県にとっての可能性を伺いたいです
【鈴木】 三重県は、ビジネス面でタイとのつながりを深めています。タイ投資委員会(BOI)に続いてタイ工業省とも産業連携を図る覚書(MOU)を結びました。日本の自治体として、タイの2つの機関と提携したのは三重が日本で初めてです。アチャカー工業相からも「三重県は電子部品デバイスの製造品出荷が全国1位であり、エレクトロニクス分野でぜひ協力してほしい」とお願いされています。また、自動車産業分野においても、三重は全国的にも多くの企業が集積していますので、電子デバイスと自動車の2本柱で産業連携が図れるのではないでしょうか。さらに、これから最も大事にしたいのが食関連産業です。同産業の発展なくして、三重の発展はありません。つまりは、三重の雇用を支えているのが、食品加工・製造業なので働き口があれば、人口減少も止められるはずです。タイでは、食に絡む産業クラスターが立ち上がると聞いています。三重にもフードイノベーションプロジェクトを立ち上げ、食品生産のみならず、加工や販売までをつなげていますので、そうした意味で、すでに実践しているヤマモリには、リーダーシップを取ってもらいたいですね。
政治もビジネスも、どちらかが得する一方通行では信頼は勝ち得ない
―知事も期待しているようです
【三林】 ありがとうございます。結果的に20年が経ちましたが、当時の日本の食品業界で、海外を視野に入れる企業はそれほど多くはなく、まして、タイはわずかでした。〝好きこそものの上手なれ〞を実践した結果です。タイが好きだからこそ、1997年のアジア通貨危機、その後のデモ、クーデターを乗り越えて行けたのだと思います。
【鈴木】 ヤマモリが、タイで現在の地位を築けたのは、一方通行的な営業ではなかったからでしょう。「俺のを買ってくれ、日本へ来てくれ」では、相手は「自分ばかり」と信頼してくれません。いまや全国的なイベントとなったタイ・フェスティバル名古屋を開いたり、タイの文化を積極的に日本で紹介してきたからこそ、信頼を勝ち得たのだと思います。
【三林】 十数年前に、当時の駐日タイ大使のカシット氏に「世界中にある中華料理のようにタイ料理屋も世界に5000店舗作りたい。国はそのために予算を出す」と言われたことがあります。それがきっかけで、東京・代々木のタイ・フェスティバルにつながり、大阪でも開催するようになりました。すると、今度は退官されたカシット元大使から「名古屋で2005年に万博が開かれるが、それに合わせてタイ・フェスティバルを開いてほしい」と頼まれたんです。いまでは3ヵ所ともに、10年以上の歴史あるイベントに成長しました。
【鈴木】 企業も行政も双方向でなければ、続きません。〝ヤマモリモデル〞で言うのであれば、三重県とBOIの関係も同じでしょう。ヒランヤー長官とはMOUの締結後、毎年お会いしており、おかげで来年は三重でセミナーを開く話が進んでいます。
―三重県を語る上で、食は外せないわけですね
【三林】 伊勢志摩サミットが決定したことで、三重県に絡んだ商品開発などプラスな話が増えています。三重には山、平野、海がある県土で、海と山の幸の宝庫なんです。松阪牛、伊賀牛、伊勢海老、あわび、的矢かきといった高級なものから、普段食するものまで食材が豊かな県です。ところが、県民はそうした環境が当たり前すぎて、PRが下手なんですよ。
【鈴木】 ただし三重の食材の多くは、素材のみでは食べられません。バンコクの伊勢丹には、ヤマモリの調味料がずらりと並んでいました。食材の宝庫で培ったヤマモリだからこそ、素材を引き立て美味しくしてくれる調味料が作れるわけです。
流通のキーマンであるバイヤーに伝えることが、消費者への最短ルート
―まさに三重の食の伝道師ですね
【三林】 引き立て役の調味料でいえば、弊社の子会社の伊勢醤油本舗の醤油は、三重県産の大豆、小麦などすべての原材料を県内産にこだわっています。先日、タイで販売した際には1本(720㎖)3000円でした。これは日本の販売価格の3倍です。ところが、あっという間に完売。つまりは、フェアに足を運んだお客さんに、醤油とたまり、両者の良さを引き出した伊勢醤油のストーリーが伝わったから売れたのです。三重では1年の豊かな実りへの感謝をこめて、伊勢醤油の「伊勢神宮奉納式」が毎年12月28日に執り行われ、年末の風物詩となっています。これもひとつのストーリーです。先日、伊勢醤油を使用した焼きおにぎりをあるコンビニで販売したところ、瞬く間に人気が出て、他のコンビニからも「出したい」とお声がけを頂戴しています。
【鈴木】 こうしたお話は、本当にうれしいですね。今後、バンコクの伊勢丹には改装後、三重の海産物が並ぶことが決まっています。ヤマモリは、そうした場所も自助努力で勝ち得ました。伊勢丹で開催された三重県フェアも反響が大きく、次の開催を待ちわびている人が多いと聞きます。行政の仕事は、そうしたチャンスを作り、海外進出のハードルを少しでも下げることです。
【三林】 知事の仰るとおりですね。知事にトップセールスできっかけを作ってもらう。民間企業としては、本当に助かります。一般消費者は、自ら食べる物の情報を調べて購入しますが、バイヤーは知りません。例えばタイ料理の夕べと題して、駐日タイ大使館の公邸でタイの文化と食を伝える会を催しています。きっかけは、駐日タイ大使から「タイ料理を広めるにはどうしたらいいか」と相談を受けたのがはじまりです。流通のキーマンであるバイヤーに伝えることが、消費者に知らせる近道だからです。そうした食と文化の交流を地道に続けることが、成功の秘訣なんです。
ありがとうございました。