大学からタイ語を専攻し、幾度となくタイを訪れたという学生時代から
その関わりは25年以上。良いところも悪いところも含めてタイが好きだと話す、
タイ国政府観光庁(TAT)アドバイザー・鹿野健太郎さんを訪ねました。
タイ経済において、観光業はGDPの20%に迫る大きな力を持っています。TATは、まさにこの観光業の持続的な成長と競争力強化を推進させる部隊であり、鹿野さんはその中でも最前線という国際市場部門で、日本からの訪タイ旅行促進を担当しています。加えて、観光に関する日タイ間の会談や会見の場では首相をはじめ、閣僚といった要人が必要とするデータや文書を準備し、通訳も行うなど業務は多岐に渡ります。そんな鹿野さんがタイを訪れることになったのは、1本のCMがきっかけでした。
その内容は、世界各国の人が登場し、母国語を話すという某国際電話会社の宣伝。ぼんやりと眺めていた時に、ハッと耳を奪われたのがタイ語でした。
「何より、タイ語の音の持つ抑揚やリズムに強く惹かれました。音楽的で心地よくて……この言葉を話せるようになりたいと瞬間的に思ったんです」。
タイは自分の一部
もうひとつの故郷です
最初の夏休みで、1カ月間のタイへのホームステイを志願。人生初の海外渡航先に、タイを選びました。「ホームステイ先の子がタマサート大学の生徒だったので、毎日のように一緒に大学へ通い、いろんな人たちと話しながらタイ語を覚えていきました。みんな親切で嫌なことはひとつもなかった。当時、出会った人たちとは今でも繋がっています」。
初めての滞在でタイが大好きになったという鹿野さんは、日本の大学生活に戻っても、物足りない気持ちがずっと収まらなかったのだそう。もっとタイの環境に浸りたい、もっと深く知りたい……と。
その後、タイの文化人類学研究を続けるため博士課程へ。研究に没頭していた時にタイ政府観光庁(TAT)の総裁から直々に声をかけられ、進むべき道が決まりました。一番大好きなタイの魅力を発信できるまさに天職でした。
タイは現在、UNWTO(世界観光機関)の2016年の国際観光収入において、アメリカ、スペインに次いで世界第3位。鹿野さんが常に心がけているのが、現地の最新情報を発信すること。「何もしないでいると、すぐに世界から忘れられてしまいますから」と業務に励みます。
その中で特に注力するのは、約7万人と言われる在タイ日本人の“生の声”を生かしていくこと。「在住者のみなさんの体験は、観光客にとって魅力的なものばかりです。移動を除けば平均滞在日数は5日間という中では、表面上のタイを味わうだけで終わってしまいます。在タイ者の情報を伝えられる“仕組み”を作ることで、タイ旅行がより充実したものになるお手伝いをしていきたいんです」。
今後、目指すべきは滞在期間中の満足度・充実度といった“質”の向上。タイ旅行での体験を通して、一人ひとりの生き方にプラスとなる“何か”を発見してもらいたいと、その想いを語ります。
TATに入庁してから最初の10年は、下積み期間だったという鹿野さん。今年5月からは、日本人会の理事会にも出席。周囲との関係性や業務の基盤を築いてきたこれからが、第2のスタートです。人脈と経験を生かし、自身だけにしか出来ないプロジェクトが動き出します。
チュラロンコーン大学留学中はタイ伝統音楽部に所属。前国王ご生誕記念に奉祝曲を演奏(左奥が鹿野さん)
PROFILE
鹿野 健太郎 Kentaro Shikano
タイ国政府観光庁・東アジア局アドバイザー(日本市場)。1973年、東京生まれ。東京外国語大学にてタイ語を専攻(在学中にチュラロンコーン大学留学を経験)。同大学院博士課程へ進み2005年から現職に。在タイ邦人関連機関との連携や各種研究会での講師としても活躍。モットーは「日々、勉強」。タイの原点となる場所は、チュラロンコーン大学とタマサート大学のキャンパス。
タイ国政府観光庁
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Tourism Authority of Thailand (TAT)はタイの観光立国政策を担うため1960年に創設された政府機関。ウェブサイトにてタイ各地の観光・イベント情報を発信中。
[問い合わせ]
Tel: 02-250-5500
Website: www.thailandtravel.or.jp
編集部より
「仕事の中で嘘はつきたくなかった。だからこそ、現職を選んだ」という鹿野さん。時代によって変わるタイの魅力、変わらない魅力。そのどちらも取り入れながら、“今”に合った情報をこれからも私たちに届けてくれるでしょう