景気後押しのカギとなる人材問題。外国人に頼らざるを得ないタイの労働事情
景気回復か、国際評価の優先か—。不法就労を巡り、タイが揺れている。
6月、国家平和秩序維持評議会(NCPO)が不法就労者を逮捕するという噂が広まると、14万人以上のカンボジア人、ミャンマー人、ラオス人が国境に押し掛ける事態となった。これを受け、NCPOはすぐに強制排除の噂を否定し、外国人が安心して働けるよう、労働許可の手続きを簡素化する「ワンストップサービス」を開始。一人1305バーツで健康診断の実施や個人情報を登録し、その日のうちに労働許可証が発行される。まずはサムットサーコーン県に設置すると、初日だけで1000人以上が集まり、その後全国22ヵ所に拡大。バンコクでも6ヵ所が設置され、一日で4000人以上が登録を行った。
少子高齢化のタイでは、失業率が約1%と売り手市場であり、建設業や漁業、工場といった労働集約型に人材が集まりにくい。現在、外国人労働者の総数は約40万人。漁業においては、約6万人の労働者のうち、タイ人は約7000人で、残りの5万3000人が外国人という現実で、「四六時中働かされ、辛いから海に飛び込んだ」といった過酷な労働環境が注目されるニュースが話題となったこともあった。
ただ、「ワンストップサービス」を実施しても「そもそも労働者自身に国籍がない」「雇用主が被雇用者の労働許可登録料を払いたくないため届け出ない」といった理由から、不法労働者が激減することはないという見方もある。これに対し、NCPOは雇用主を取り締まる規則も定め、労働許可証を持たない人材を雇った場合、罰金、懲役といった罰則を科すことを明らかにした。余談だが、外国人労働者も当然、タイでの所得税の納税義務を負う。
景気の後押しのための労働力の確保は、タイにとって切実な課題であるものの、急ぐあまり「人身売買」と揶揄されるのは避けたいところ。ましてやタイは、各国の人身売買への取り組みを格付けした4段階評価の最低ランクを指定されたばかり。景気回復と国際評価の狭間に揺れるタイの葛藤は、しばらく続きそうだ。
【写真上】29日、カンボジアのティア・バン副首相とNCPOのプラユット議長が会談。労働問題などについて意見を交換した