新春インタビュー
特命全権大使 佐藤 重和
《プロフィール》
東京都出身。1974年東京大学卒業、同年外務省入省、2004年経済協力局長、2006年在香港総領事・大使、2010年駐オーストラリア特命全権大使を経て、2012年在タイ日本国大使館特命全権大使。現在に至る。
今年は「発展、前進」の年になるだろうと期待しています。
—2014年を振り返ってください
皆様、あけましておめでとうございます。私が着任してタイで三度目の新年を迎えました。タイは〝アメージング〟な国と聞いていましたが、いろいろな意味で、その通りでしたね。13年の下半期からはじまった政治的混乱は、収拾できないまま、最後は軍の介入(クーデター)という形で終わりました。当然、生活や経済にも大きな影響を与え、目に見えて個人消費や観光収入が落ち込みましたね。その後は、治安の安定に伴い、国民生活・経済活動もようやく日常を取り戻し、下半期からは徐々にですが回復傾向にあります。タイ政府は、今年の経済成長率を4%前後だと見通しているので、このまま成長軌道に乗ることに期待しています。安定成長には、政治の安定が重要ですから、早期の憲法制定、国民の総意のもとによる選挙が行われることを願っています。―タイの政財界の捉え方はいかがでしょうか
経済界のリーダーたちとお会いすると、皆一様に2015年は安定成長の年にしたいという意欲を感じます。成長軌道への基盤は整いつつあるのではないでしょうか。タイの政治的混乱はこれまでも何度か繰り返されてきましたが、日タイの経済関係は〝発展トレンド〟を維持してきました。数字の面では、政情不安による一時的な影響はあります。とはいえ、タイという国は、これまで誰が政権を取ろうとも、経済政策の方向性は基本的に変わりませんでした。そこ(経済)だけは「悪影響を及ぼしてはいけない」という認識で共通しているので、長期的なトレンドは変わらないと言えます。―日タイの協力関係も変わらないということですね
タイにとって日本は、経済政策を進める上で他国に比べて、圧倒的に重要な存在です。一昨年のタイに対する外国投資額の5割以上を日本が占めていることは周知の事実だと思います。タイの経済発展は、外国投資によるものが大きく、そうした構造の中で、日本は中心的な役割を果たしてきました。貿易とも合わせ、日本がタイ経済にとって圧倒的に重要であることは、タイの指導者や経済界の方々は十分認識しています。―タイ政府が進める大規模なインフラ整備計画に日本は、関わることができるでしょうか
タイ政府が進めるインフラ整備計画においては、間違いなく日本も期待されているでしょう。特に、日本の高度な管理能力や技術力、培ってきた経験値という強みを生かせば、必ず、タイ経済の高度化に貢献できるはずです。そうした点を丁寧に説明していくことも重要ですね。―今年はAEC(ASEAN経済共同体)発足が予定されています
理念的には、ASEAN地域でモノや資金が自由に行き来するマーケットの枠組みができることになります。あとは、統合内容をどこまで掘り下げていけるかでしょう。日本企業にとっても、活動の幅が広がることは明らかですから、歓迎すべきものです。ただ、ASEAN域内でも利害の違いはありますから、そこをどのように克服していけるのか、その中でタイという国がどれだけイニシアティブを取れるのかが重要です。特に、大陸ASEAN(タイ、ベトナム、カンボジア、ミャンマー、ラオス)の中で、そのハブ(中心)としてタイが機能することは極めて重要で、そうなるよう期待しています。タイ政府も地域統合会社設立の促進など関連の政策を進めています。―一昨年のビザ緩和を追い風に、ますます日タイの関係が強まりを見せています
ビザ免除により、タイの人たちの訪日が増えることを期待していましたが、予想を超える勢いで増加しています。タイ人を対象とした海外旅行に対する満足度調査では、「もう一度行きたい国」として日本を挙げた人が最も多かったそうです。これは、今後もタイ人訪日客が増えると見込めるうれしいデータですね。そうしたタイの人たちの対日関心の高まりに合わせてここ1〜2年、多くの地方自治体の首長がタイを訪れ、トップセールスが頻繁に行われています。自治体が求めるのは、これから発展が期待されるマーケットへの進出です。すなわち、地元企業や産品の進出支援です。また、ビザ緩和により急増したタイ人の訪日需要の取り込みにも熱心です。一方、タイ人にアピールする観点からは、全国の地方自治体が競争して努力するのはよいことですが、本来であれば、もっと広域的にプロモーションができればより効果的になるでしょう。隣県の産品がときにライバルになることはわかりますが、タイの人にとっては「○○県の」という事実以上に「日本の製品、産品」ということが重要なのだと思います。たとえば観光客の誘致では広域的に周遊できるようなプランなど、隣県が協力して観光プロモーションができれば、タイ人にとってより魅力的になるでしょう。
―タイという国の印象は
タイという国は、地理的にアジアの交差点に位置し、その中で長い歴史を生き抜き繁栄を遂げてきました。大国の狭間の中で最善の道を探りながら何百年にわたって独立した国を築き上げてきたわけです。そうした歴史や文化を背景に、日本との近似性、共通性も大きく、我々日本人にとって格別の親しみを感じさせる国ですね。街の様子を見ても、規律はないが雑多な様子をうまく取り込んでいます。混沌のなかの調和という感じですね。仕事や生活の中でフラストレーションを感じたり、腹を立てたりすることはままあるとしても、全体としてはまぁいいかということで、いい国だなと感じている人が多いのではないでしょうか。―日系企業の進出増にともない、在タイ邦人が増えています。大使館の役割や重要度も増します
邦人の安全と利益を守るということが我々の最も基本的な役割です。治安や生活面を含めて情報提供を行い、邦人や日系企業に何か問題があった際は、最大限支援していきます。大使館の敷居は決して、高くはありません。何かあればいつでも相談してください。―2015年は、明るい年になりそうですね
昨年は、混乱が収拾した年でした。今年は「発展、前進」の年になるだろうと期待しています。タイで活躍されている皆さんにとって、昨年以上に大きな発展の年になることを祈念しています。