タイ進出50年で最大の変革期
社長 三木 晋吉
《プロフィール》
1965年生まれ。米国ロサンゼルス出身。87年早稲田大学卒業。東京海上火災保険(現東京海上日動火災保険)入社。96年フィリピン、2003年米国シンシナティ、08年米国ロサンゼルス、14年東京海上日動火災保険(タイランド)社長に就任。現在に至る。
タイ進出50年で最大の変革期。目指すは、業界3位
—タイ進出歴が非常に長いと聞きました
“東京海上”の冠がついたのは2010年ですが、実際に進出したのは、約50年前に遡ります。現在はタイ国内に24支店、日本人駐在員21人を含めた、約800人の体制となっています。弊社グループの海外現地法人のなかでも大組織です。—他社(ライバル損保)と比較しても、海外展開では一歩リードですね
おかげさまで、海外進出は古く、英国や米国は100年以上経ちます。昨今は、1000億円以上のM&Aもいくつか手がけ、03年に5%程度だった利益に占める海外の比率は、13年には約50%に及びます。そのなか(海外市場)でもアジア、とりわけ東南アジアは、将来性の高い地域として注目の地です。弊社にとって、インドネシア、インド、タイは東南アジア地域の3大重要拠点として捉えています。前者2ヵ国は、言わずと知れた人口大国。それと比較して、タイは6000万人と少ないですが、アジアのデトロイトと言われるように、自動車産業を中心とした産業大集積地であり、日系企業の進出数では群を抜いています。従来は火災や貨物などの法人向けの損害保険が収入保険料のポートフォリオの大部分を占めておりました。ただ、最近では中間所得層の増加により、個人向け損保の拡大が進み、個人向け自動車保険がポートフォリオの半分を超えるなど、法人対個人の比率も変わりつつあります。—新車販売減の影響は
11年の洪水後の復興需要による好景気や損保の重要性の高まりを受け、13年までの業績は好調を示していました。ただ、14年は、政情不安や自動車新車販売台数の減少により、収益は確保したものの売上=保険収入自体は減退しました。とはいえ、長期的に見れば、タイの損保市場は拡大傾向にあり、AEC(ASEAN経済共同体)発足後を加味すると、見通しは明るいと予測しています。—景気回復は遅れているようです
マーケット自体が拡大しているため、目標数値も毎年二桁増の伸びで設定しています。AEC発足後は、陸ASEANで、ヒト・モノ・カネ・サービスの往来増加が予想され、ハブとして位置付けされるタイの重要性は高まるばかりです。中間所得層の増加に伴う個人向け損保のさらなる機会の拡大など現在は、進出50年のなかでも最大の変革期であり、飛躍しなければいけない段階だと自覚しています。それを実現するべく、昨年着任した際にぶち上げたのが、業界7位から3位への浮上です。今後5年で達成するつもりです。—目標達成に向けた戦略は
3位を掲げた後に、設置したのがメコン室(15年1月立ち上げ)です。AEC発足で期待されるメコン川下流域(タイ、ミャンマー、ラオス、カンボジア)へのサービス展開を見越した部署です。旺盛なインフラ事業への投資をサポートしていきたいと考えています。高品質サービス提供が最優先であり、すぐには利益を出せるとは考えていません。同地域の経済発展に合わせ、10〜20年スパンでの利益化を目指しています。また、足元の収益増への対応としては、昨年はタイ国内に4支店を開設しました。保険収益を伸ばすには、物量=規模拡大が必要ですから。—赴任後、迅速な対応はさすがですね
もともと米国で生まれ育ち、昨年4月のタイ赴任前は米国に計11年、その前はフィリピンに5年と海外畑が長いということもあるでしょう。“慣れない海外生活”と言われるような壁がない分、スピーディに動けているのだと思います。—三木社長といえば、バスケットの元日本リーグ選手という顔をお持ちですね
中学3年生の頃には、すでに193センチを超え、高校・大学とバスケットに打ち込み、入社後は日本リーグで続けました。丸9年の選手生活を引退した直後にフィリピン駐在が決まり、そこから海外畑を歩むことになりました。—現在は?
タイにきてからは立場上、会食や付き合いが多く、また、ご存知のように週末はゴルフですね。そうした場で企業のトップと知り合い、保険にからむ悩みを聞き、それにお応えすることが命題です。ちなみに、運動不足にならないよう、いまでも腹筋は毎日300回しています。—グローバル展開への注力は、海外畑にとってはやりがいありますね
私の役目は飛躍に向けた種まきを施すことです。10年、20年後に花開くような基盤づくりが責務。また、経営者という立場は、社員の家族を含めた責任も重大で、やり甲斐という点では申し分なく、挑戦あるのみです。編集後記
そこには、見上げる長身の三木氏(193センチ)の姿があった。元プロバスケット選手で、東京海上ホールディングスでも、随一の海外畑を歩んできた。日本の損保市場がシュリンクするなか、戦場は海外へと移るが、世界には、パークシャーやアリアンツ、AIGといった業界の巨人が立ちはだかる。経済発展を背景に、世界が注目する東南アジアのなかでもタイは、大有望市場の一つ。タイ現法への赴任後、すぐに掲げたのは業界3位(現7位)への浮上だった。三木氏の目線の高さに感服。(北川 宏)