EC拡大に必要な条件が揃うタイは超有望市場
楽天タイ法人代表 廣田 大輔
《プロフィール》
1974年生まれ。富山県出身。早稲田大学大学院修了、2005年楽天入社、09年イーバンク銀行出向、10年楽天国際部アジアパシフィック推進室室長、13年TARAD.com。現在に至る。
EC拡大に必要な条件が揃うタイは、超有望市場
—タイ進出6年目を迎え、業績はいかがでしょう
楽天がタイに進出したのは、2009年です。当時、同国最大のEC(電子商取引)サイトを運営していたTARAD Dot Com(タラッド)を子会社化し、タイ市場に参入しました。当初、タラッドは、掲示板サイトで売り手と買い手が取引するCtoC方式がメイン(現在も継続)でしたが、楽天が資本参加することで、ビジネスモデルをマーケットプレイス型(売り場を提供する)に転換。日本のインターネット仮想商店街 “楽天市場”をモデルとするBtoBtoCに注力しはじめました。 正直、タイのEC市場は発展途上で、全商取引に占めるEC化率は、日本の5%に比べタイは1%弱に留まっています。ただ、2014年は、弊社の実績を見る一つの指標であるマーケットプレイスでの取引額が、前年比2倍の伸びを記録しました。—14年は政情不安や景気低迷により、多少なりとも小売への影響があったかと思いますが
取引額増に直結した要因としては、モバイルコマース(携帯情報端末を利用したネット上の商取引)の牽引があります。ご存知の通り、タイのモバイル人口はネット人口をはるかに凌ぎます。電車や街なかで携帯端末(スマートフォンやタブレット)を操作する風景は、いまや日本と変わりません。 また、中間所得層の増加とともにクレジットカードの普及率が高まり、携帯端末を使って買い物をして、クレジット決済をする人が増えています。昨年に関しては、政情不安や景気低迷による購買意欲が低下したと言われていましたが、外出(政情不安の影響)を控えた人が、自宅にいながら携帯端末を使って買い物をしていたのか、取引は増加しました。仮に政情不安がなければ、さらに、もっと高い成長曲線を描いていたかもしれません。 そのほか、日本では年4回開催している、利用者促進イベント「楽天スーパーセール」をタイで2回行い、同時期に大きな広告投下を行った成果もありますし、出店者へのフォローとして開くセミナーも、日本と同様に開いています。—タイ市場は拡大傾向にあることは間違いなさそうですね
EC市場拡大で重要なのは「インターネット環境」「決済」「物流」の3つのインフラです。ネットと決済については、前述の通りです。今後、タイ市場で足りない部分は物流でしょう。AEC(ASEAN経済共同体)が発足され、ヒト、モノ、カネが自由に行き来できるようになれば、陸続きの隣国とのクロスボーダー(越境)取引が生まれます。そういった将来性を踏まえても非常に魅力的な市場です。—まさに貴社グループが掲げる楽天経済圏が生きる市場ではないでしょうか
そうですね。弊社グループには、「楽天市場」以外にも旅行・金融といったさまざまな事業を抱えています。それらが提供するサービスにより形成される経済圏で、貯めて使える「楽天スーパーポイント」や共通IDにより、サービス利用者の回遊性・取り込みにつながっています。AECは、グローバルな「楽天経済圏」が構築できる土壌となる可能性を秘めています。—トップとして、初の海外赴任での苦労はありますか
海外(タイ)赴任は2013年からですが、日本では海外事業を管理する部門でしたので、海外、とりわけASEAN市場の魅力の高さは感じていました。「いずれは海外で」と心に秘めるなかでチャンスを得たのがタイです。 現在、弊社スタッフは日本人2人を含む約80人です。本社や他の海外グループ子会社のスタッフとのコミュニケーションも日々あるため、基本言語は英語です。ローカルスタッフのなかには英語を話せないメンバーもいるため、就業後に英語授業を提供するなど、日本と同様に「社内公用語英語化」を進めています。とはいえ、ここはタイですので、適宜タイ語を使うこともあります。—タイは、ジョブホッピングが多いと言われますが
弊社には、「Global Experience Program」という海外研修プログラムがあります。世界中に展開している拠点における有望なスタッフや優秀な成績を収めたメンバーに、日本での研修機会が与えられる制度です。内容も仕事だけではなく、観光や習い事を通して日本の文化を知ってもらうことに重点を置いています。「頑張れば、日本に行ける」という意識を持ってもらうことで人材流出を防ぐひとつの方策となっています。—廣田氏にとって、楽天とは
一度やると決めたら、必ず実行する会社です。しかも、中途半端ではなく徹底的にです。編集後記
日本EC業界の雄“楽天”。創業者は、プロ野球球団の創設、経済団体「新経済連盟」の発足などを仕掛けた三木谷浩史氏だ。目下、積極的な海外企業のM&Aで、グローバル化を急ぐ。なかでも中間所得層(購買意欲増)の広がりと急激な携帯(スマホ)普及を見せるタイは、まさにEC花盛り。昨年は、業績を下げる企業が多いなかで取扱高2倍を達成。「政情不安がなければ、さらによい成長曲線を描けた」と話す廣田大輔氏の視線の先には、すでにASEAN市場が映っていた。(北川 宏)