消えた元首相

プラユット暫定首相も「予想していなかった」と語る、失踪の経緯

 


「1%でも釈明の余地があるかぎり、闘い続ける。決して逃げはしない」。6年もの間続いた「コメ買取制度」裁判でこう語ったインラック元首相だが、最終判決が下る8月25日、忽然と姿を消した。9時の出廷時間には弁護士が「同氏は体調不良のため出廷が困難」と説明し、判決の延期を求めたが、病状説明の診断書も提出されず、裁判所は3,000万バーツの保釈金を没収し逮捕状を取った。判決は9月27日に延期された。

インラック政権最大の“負の遺産”ともいわれる同制度は、政府が高価格で農家からコメを買い取る、2011年新政権樹立時の目玉政策だった。しかし翌12年、汚職の疑いを持った他の政党や機関が訴えを起こし始める。さらに13年、コメに関わる取引で不正が発覚。中国との間で480万トンの売買契約を結んでいたが、実際の取引は約38万トンにしかならなかったことが、国家汚職追放委員会の捜査で明るみに出た。汚職に関わった施策担当のブンソン氏が訴えられ、与党党首だったインラック氏も、国に損失を与えることが分かっていながら、何も手を打たなかった“職務怠慢罪”で訴えられた。

同氏の足取りは、カンボジアからドバイを目指した可能性が高いとされたが、カンボジアは入国の可能性を否定。イギリスに亡命との噂もあったが、判決が出ていない今、その可否もあやふやだ。インターネットで「軍が逃亡に協力したのでは」というコメントも流れたが、国家平和秩序維持評議会の広報担当ウィンタイ大佐と首相府広報担当のサンセーン中将は、「根拠の無いコメントは控えるべき」とし、「裁判中は監視を非難され、逃亡すれば怠慢と言われる。非常に遺憾」と答えた。プラユット暫定首相も「判決まで答弁を続ける姿勢に見えた。逃亡は予想していなかった」とコメントしている。

かつてはタイ貢献党と支持者の希望だった同氏。シナワトラ家が政治から完全に撤退するのか、判決までに戻り答弁を続けるのか。世界中の注目が集まっている。

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