インラック前政権下から3分の1にまで下がった買取価格
“すったもんだ”を繰り返したコメ問題が、一応の決着か? この国のコメ問題は、インラック前首相時に実施された実質的なコメ買取制度(コメ担保融資制度)に端を発する。当時、市場価格よりも高い1トン1万5000バーツ(以下B)で政府が引き取るという政策は“バラマキ”と揶揄され、汚職問題にまで発展し、同首相に賠償命令が下されたのは記憶に新しい。そして、同政策が廃止されたことで新たなる問題が勃発。先日、あるコメ農家が籾を売ろうとすると、1トン5000Bになったという。10年ぶりの最低価格の更新という衝撃がタイ全土を駆け巡った。
ちなみにこの国のコメの流通は、農家が籾のまま精米所に売り、その後ブローカーを通じて、広く流通されるのが一般的。多くの農家は保管場所を持たないため、精米所との交渉においては足元を見られるという。過去に世界№1の生産国にもなったこの国において、コメは非常に重要な産業。2013年の国家統計局の発表では、農家は377万人いるとされ、当然、現政権においても看過はできない。しかし、1トン1万1525Bでの買取を主張する農業・協同組合省と、同1万Bとする商務省で対立するなど政府内でも意見が割れ、最終的にプラユット暫定首相の裁きによって高価買取が選ばれた。
しかし、それだけで問題は解決しなかった。同金額に納得しない農家が続出。結局1日、解決に向けた会議が再び行われることとなり、1万3000Bで落ち着く格好となった。市場価格の下落が話題になると、農家のなかには自ら精米し、ガソリンスタンドなどで販売する者やSNSを使って注文を受け付ける者も出てきたという。
タイの多くの農家は前述したように保管場所はおろか精米機や種籾を持たず、資本家から金や土地を借りることで生活している。コメの価格が下落すれば担保するものはなく、そのまま収入減につながることから、“負の連鎖”と言わざるを得ない。
コメ生産国世界№1からすでに陥落したものの、未だトップ5位以内に位置づけているタイ。市場価格1トン350米ドルのベトナムやインドに対し、同369米ドルのタイはまだまだ厳しい状況が続くが、今後も現政権はどう舵取りをしていくのだろうか。