社員を勝者として対岸へ渡すことが義務
代表取締役社長 國丸 昌之
《プロフィール》
広島県出身。1980年富士通入社、国内でシステムインテグレーション業務に従事後、北米・欧州勤務を経て、2008年タイ赴任、2011年から現職に至る
「社員を勝者として対岸へ渡してやることがトップの義務です」
―2013年は、業績好調の日系企業が大半を占めています
弊社の業績も好調を維持しています。このまま行けば、現地法人設立以来の営業利益が見込めるでしょう。数字的には、上半期は予定以上を達成することができました。今後、大きなビジネスの減速がなければ、目標は達成できると思います。―タイでの事業領域は?
我々のビジネスは、日本の富士通本体の小型版と言えばわかるでしょうか。ハード、ソフトウエアの販売はもちろんのこと、最も期待しているのがサービス事業です。サービスと言っても裾野は広く、ITインフラストラクチャーの構築、業務アプリケーションの構築、データセンターやクラウドといったマネージド・サービス、SAPソリューションの4つの柱に分けられます。事業規模でいえば、インフラ構築が最も大きく、次にアプリケーションサービスですが、とにかくパソコンやソフトウェアといったハードから、ネットワーク構築・管理、業務アプリケーションなどのサービスまで、あらゆるIT関連事業を提供しています。―現在の顧客(日系企業、ローカル企業)の割合を教えてください
日系7割、ローカル3割です。日系の中でも、製造業・自動車関連が大きな割合を占めており、営業組織は産業毎に設置して専門性を発揮させる形にしています。1990年に日系企業の支援を目的に設立した現地法人も、昨年9月で23周年を迎えました。日系ビジネスの拡大はもちろんですが、今後は早い段階で日系ビジネス6割、ローカルビジネス4割くらいのポートフォリオにしたいと思っています。―タイのローカル企業の事業も高度化している証拠ですね
その通りです。金融・流通業を中心にローカル企業の事業が高度化しています。今以上に成長を遂げるには、IT化によるコストダウン、事業の合理化が必要となるでしょう。国としても、最低賃金の値上げや事業の高度化によって、製造立国をうたってきた労働集約型産業からの脱却を図っています。つまり、事業の高度化は、弊社のITソリューションを提供できる土壌が拡大していることを意味します。―タイでもクラウドサービスを開始したようですね
タイデータセンターにプライベートクラウド基盤を設置し、「FUJITSU Cloud IaaS Private Hosted」を提供しています。東南アジアでは、シンガポールが先行してきましたが、タイでも災害リスクやセキュリティリスクをヘッジする企業が増えてきたということです。もちろん、予防措置というのは何も起こらなければ、費用だけがかかるため、メリットと投資をどう評価するかは経営者の考え方次第です。―決定権者(トップ)としての理念を教えてください
座右の銘とかはありません。強いて挙げるなら、物事を考えたり、判断するときの指標として、難しいと思われる方を選ぶようにしています。経験的にも、難しい方を選択した後に、振り返ってみれば、正しかったと思うことが多かったですね。―海外赴任は、何ヵ国目ですか?
アメリカ6年、イギリス10年に続いて3ヵ国目です。それ以前は、システムエンジニアとして日本で10年間勤め、タイは2008年からです。―単身赴任と聞きました
単身のため、休日はゴルフやジョギングなど、なるべく体を動かすようにしています。昨年末は、イギリスで働く長女、長男に加えて、東京の家内と次女の家族全員がタイに集まりうれしかったですね。―学生時代に何かスポーツをされていたのですか?
中学、高校時代は陸上部に所属していました。もともと、短距離選手でしたが、高校の顧問の勧めで高2の冬からやり投げに転向し、高3の大会で県2位になったことがあります。私たちのチームは個としてはたいしたことはないのですが、リレーでインターハイを狙える位置にいました。中国大会でインターハイを逃したことは今でも忘れられません。当時のメンバーとの絆は深く、大人となった今でも最高の仲間です。一見、100メートルは短い競技と思われるかもしれませんが、走っている本人は、色々なことを考えているんです。選手生活で得たものは、何をしても、常に自分を見つめ直す習慣ができたことかもしれません。―2014年を迎えました
前述した通り、今以上に会社(現地法人)を大きくしたいですね。以前、お客様に聞いたのですが「トップは、スタッフを勝者として対岸へ渡してやることが義務」だそうです。まずは、今年度という川を勝者として渡し、社員が誇りを持って働ける環境を作るのが私の役目だと思っています。編集後記 以前、タイのIT市場は日本に比べ10分の1以下で、伸びしろは未知数と聞いたことがある。富士通は、進出から23年が経った。その間、タイでは産業が高度化し、企業もIT活用のメリットを享受できるレベルに達してきた。だからこそ、同社のクラウドサービスは、ある意味タイ企業の実力を測る物差しにもなり得る。先行導入の決断は「難しい方」を選んだのかもしれない。だが、トップ自ら挑戦する姿は社員に勇気と誇りを与えることは間違いない。(北川 宏)