物心つく前から、ずっと絵を描いていたという阿部恭子さん。
彼女の絵を纏ったBTSが今、バンコク都内を駆け巡っています。
見た人に元気を与えるエネルギーを秘めた、絵の源とは……?
パッチリと開かれた目に大きな鼻、鮮やかで独創的な色使い、絵から溢れ出るエネルギーによって、無機質だったホームが一瞬で色めく—-それが、3月28日から始まった恭子さんの絵によるBTSプロジェクト。
動き出したのは、2016年末。日本時代から親交のある「Pentel」から、「故ラマ9世崩御により悲しみに暮れるタイを元気にしてほしい」という依頼から服喪期間を経て、満を持しての登場でした。「まさか自分の絵が、多くの人が利用するBTSに1本丸々ラッピングされるなんて思ってもいなかったので、お話を頂いた時は驚きました。自分の手を離れ、こうしてバンコクを走り回っていると思うと光栄ですし、見た人の心が少しでも元気に、明るくなれば」とその胸中を語ります。
王宮・寺院、タイの花(プルメリア)や果物、水上マーケット、ロイクラトンとタイを象徴する4つの場面を切り取ったという車両デザイン。制作期間は、全部で約6カ月。「好きにやっていいよ」と言ってもらい、タイの人たちが元気になれる場面を思い浮かべながらテーマを決めたのだそう。
そんな作品に登場する人たちはみんな、笑顔で手を振っています。これは、恭子さんが訪れた先々で受けたタイの印象。「よく来たね。うちにも寄っておいで。元気でね……」。そんなタイの人懐っこさ、優しさを表しています。
アートをもっと気軽に、
日常的に楽しんでほしい
3歳の頃には、すでにペンだこができていたという恭子さんにとって、絵を描く生活は息をするように自然なこと。
「無意識のうちに、自分が思い切り絵を描ける場所を探していたのかもしれない」と、タイ人の旦那さんとの結婚を機にタイへ移住し、現在のアトリエ兼自宅に至るまでを振り返ります。1日の半分以上は絵に向き合い、絵のことを考えなかった日はタイ生活のうち片手で数えられるほどだとケロッと話す恭子さん。
「目につくものは全部アートとして見ちゃうんですよね。あの看板の色がいいな。あの色とあの色を組み合わせて作ってみようなど、常に頭を絵のことが巡ってしまうんです」。
何をするにも、最初に考えるのは絵を描くこと。移動時間がもったいない、この予定を入れると疲れて絵に集中できなくなるかも……。何よりも大切な絵を描くために、自分の時間も体力もセーブして、挑んでいるのです。
そんな恭子さんが時間を惜しまないのは、自分の目で見て、体験すること。そして、目の前にある対象者(物)の背景に想いを巡らせ、イメージすること。
「過去に何度も見たことがある物でも、当時と今では捉え方が違うかもしれない。絵を描く前に改めて見て、感じることが大事なんです。あと、例えばリンゴを描くにしても、目の前に来るまでには芽から木になり、実が少しずつなって、人の手で収穫されて運ばれて来る。生物的な構造はもちろん、辿ってきた背景までを考えることで色の乗せ方も変わってきますし、生命の流れをイメージすることで、絵がより生き生きする。よく見て描くことも必要ですが、それ以上に知ることが重要なんです。自分の中でしっかり受け止めないと、いい絵は生まれないですから」。
恭子さんの“描きたい”という強い気持ちから生まれた作品たち。そこに満ち溢れる、太陽のような眩しく力強いエネルギーが、私たちに元気と活力を与えてくれます。「作品を通して、皆さんと喜び合えればうれしいです。これからもずっと」。
車両全面にラッピングされた恭子さんの絵(運行は2018年6月29日まで)
PROFILE
阿部 恭子
Kyoko Abe
1967年、大分生まれ。幼少期から絵を描き始め、デザイナー学校を卒業。フリーのイラストレーターとして福岡で活動し、1996年、結婚を機にタイへ移住。97年、講談社「おひさま絵本大賞」受賞他、タイ国内で個展を多数開催。主にアコ・ギャラリー(スクンビット・ソイ49と51の間)に作品を展示。好きな場所はベンジャシリ公園、ルンピニ公園、市場。
紙芝居読み聞かせワークショップ
5/27(日)10:00〜16:00バンビーノ幼稚園にて開催
子どもたちのために平和を願い書かれた「夾竹桃物語 わすれていてごめんね」(緒方俊平作)を、阿部恭子さんが紙芝居に。広島原爆投下の事実と平和の大切さを教えてくれます。
[問い合わせ]
Telephone:081-817-4175
Email:mayumayuballet0329@gmail.com
編集部より
作品とは別に、岩手県釜石市の「希望の壁」や広島の原爆を子どもたちに伝える上記イベント、スリランカの孤児院ワークショップなど、多様なプロジェクトに参加する恭子さん。タイを飛び越え、世界中に元気を届けています