さっそく“お手柄”も、国民批判であっさり中止示唆
「賄賂はタイ警察の悪習だった」
タイ国家警察のアデュン少将は7日、交通違反をもみ消すために警察官へ賄賂を渡す違反者を捕まえた警官に、報奨金1万バーツを渡すと発表した。
これは、タイ暫定政府が進める汚職撲滅対策の一環。次の日には、さっそく、違反者を捕まえた“お手柄”警官が満面の笑みで報奨金を受け取るニュースが流れた。だが、この前代未聞の施策と報道に対し、国民は冷ややかだ。「渡す方(違反者)も悪いが、もともと賄賂を要求する警官が多く、これでは本末転倒だ」「いくら民間企業から受けた基金が財源とはいえ、もっと使い道はあるはず」など、賛否というより批判が噴出。
こうした批判を受けて、ソムヨット警察庁長官は13日、冒頭の発言通り、賄賂がタイ警察の悪習だったと認めた。その上で、アデュン少将が「今回の施策は、10月末で一旦終了させ、継続するかどうかはその後、検討する」と中止を示唆した。
「国民が納得するわけがないし、警官の賄賂問題はもっと巧妙」(地元紙記者)。
同記者によると、道路交通違反者に違反切符を渡して罰金を徴収する、一見、模範的な警官も、受け取った罰金の何割かを自らの懐に入れ、残りを警察署に収めるケースがあるという。なかには、交通違反とは関係がない、車の整備不良を指摘して罰金=賄賂を要求する強者警官も……。
違反者側も悪い。タイでは違反者の免許証を警官が回収し、警官から渡された書類に記載してある警察署に出頭して罰金を支払うシステム。そのため、わざわざ出頭するのが面倒くさいという理由から「賄賂で許して」と渡す違反者が後を絶たない。
福沢諭吉は著書の「学問のすゝめ」の中で、当時の明治政府が、国民の悪しき習慣を改めさせようと無理強いして、かえって逆効果を招いたと指摘した。アメリカの禁酒法もしかり、国家権力を持ってしても、染み付いた習慣や文化を変えるのは至難の業。果たしてタイ政府は“悪習”を打ち破れるのか、もう少し見守っていきたい。
【写真上】誘惑(賄賂)に打ち勝ち、買収違反者を逮捕し、報奨金を受ける警官