レムチャバンなど3つの特別市が誕生? タイの脱中央集権の本気度
2014年10月8日、タイ軍事政権のウィッサヌ・クルアガーム副首相は、世界16番目の規模の港「レムチャバン港周辺」、ミャンマー国境近くの「メーソット」、世界的な観光地「サムイ島」の3ヵ所を、特別自治(市)行政区分に格上げすると発表。すでに、法案は法制委員会事務局で審議中だという。同副首相は3つの新たな特別自治市について「レムチャバンは国際的な海運業、メーソットは国境貿易、サムイは観光と特別市としても十分な歳入規模を得られる」と話す。
「特別自治市って何が違うの?」と思った人も多いだろう。そもそもタイの地方行政には、日本の都道府県や市町村といった直接選挙でトップを決め、歳入による大幅な独自予算が組める自治体はバンコクとパタヤ(一部制限)のみ。それ以外はすべて内務省の下位組織とされ、「国の出先機関」に位置付けられている。ちなみに、自治体が独自に徴収できる地方税は、看板税、土地家屋税、地域維持税の3種類で、権限範囲も狭い。しかも、県知事や郡長といったトップは内務省などから派遣される国の役人で、行政区や村に至っては、同省が区割りした行政単位にすぎない。
閑話休題。新たな特別自治市の話だった。
前述の3地域は、多くの外資が集まり発展が著しい。今後は、行政サービスの柔軟かつ、決断・決定の早さも求められる。政府も中央直轄では、対応しきれないと判断したのかもしれない。ただ、課題もある。懸念されるのが、自治の権利や機能を果たすための歳入の確保。メーソットの2014年の歳入は500〜600億バーツ。AEC(ASEAN経済共同体)が発足し、域内国の規制が緩和されることで、同市の歳入は数千万バーツの収入を見込めるという。また、すでに多くの外資工場が隣接し、巨大港を持つレムチャバンや外国人観光客で賑わうサムイの歳入も多い。
だが、そのほとんどは国の大切な財源。特別市に昇格し、今まで以上の各種租税を徴収できたとしても、自治の権能を維持できるほど潤沢な予算が組めるかは不明。地方分権化は国の発展として望ましいが、将来の歳入予想から、権限、税制配分といった制度設計を怠れば、取らぬ狸の皮算用となりかねない。
【写真上】豊富な観光資源が武器(写真:サムイ島)