中国と覚書を結んだ翌日、「次は日本」と述べるタイ外交略
前政権下から遅々として進まなかった、タイ最大級の公共事業“鉄道整備計画”が動き出した。
12月19日、中国、タイ両国政府は鉄道整備事業に関する覚書を締結。タイ東北部のノンカーイ県と東部ラヨーン県マプタプット工業地帯を結ぶ734キロと、首都バンコクから中部サラブリー県ケンコイまでの133キロを結ぶ、総延長867キロの大事業だ。2016年着工、2022年の完成を目指す。
今回、中国とは2つの覚書が結ばれた。ひとつは前述した高速鉄道整備事業だが、もう一方が興味深い。内容は農産品売買に関する協力。うがった見方をすれば、タイの鉄道事業を中国に任せる見返りに、コメや天然ゴムを購入してもらうという、物々交換のような覚書。ただし、プラユット暫定首相は「高速鉄道整備とはあくまでも別物」だと否定しているが。
これまで高速鉄道建設をめぐる各国の受注合戦では、日本、中国に加え韓国までが名乗りを上げ、激しい外交戦を繰り広げてきた。それだけに覚書締結は中国の一歩リードを決定付け、安倍首相にとっては、ショックだったに違いない。ところが、そこは欧米列強の植民地にならず、独立を貫き通してきたタイ外交。経済的パートナーの日本をないがしろにするはずはなかった。中国と覚書を締結した翌日、プラチン運輸相は、「日本側から中国との締結は早過ぎるとの声があがったため、他の3路線は日本を優先する」と電撃発言をし、2月にもプラユット暫定首相が日本初訪問すると明かしたのだ。
タイが日本に整備を求める路線は、ミャンマー国境のターク県〜ラオス国境に近いムックダーハーン県、タイ東部からバンコクを通って西部につながるカンチャナブリー県〜バンコク〜ラヨーン県、バンコク〜チェンマイ県〜チェンライ県チェンコンの3区間。一部報道では3路線の総延長は、約1,500キロにも及ぶという。
“新幹線”を世界に売り込みたい日本にとっては、ひとまずは御の字。だが、日本のODAで建設したバンコクの地下鉄MRTを、土壇場で日系企業からドイツのシーメンス社に代えられた苦い思い出がある。それだけに、覚書締結までは静かに見守りたい。
【写真上】10月16日、ミラノで開かれたアジア欧州会議で握手を交わす、プラユット暫定首相と安倍首相
写真提供:Thai Royal Government