高付加価値で勝負する日本の中小企業を
情報・金融両輪で支える
バンコク駐在員事務所 首席駐在員
田原 宏
《プロフィール》
たはら ひろし
■1961年生まれ。85年に日本政策金融公庫の前身である中小企業信用保険公庫に入社。94年にシカゴ大に留学。2010年にはインドネシア中央銀行にJICAの長期専門家として派遣された。13年に来タイし現在に至る。
■愛読書:「冬の鷹」(吉村昭)
■趣味:水泳(日本では週末は1㎞クロール)
■尊敬する人物:数多くの日本の中小企業経営者の方々
■バンコクの行きつけの店:一馬
■愛用の腕時計:腕時計は使わず、携帯電話に頼っています
■よく見るまたは、活用しているウェブサイト:
最新の情報には素早く対応しなくてはならないので、ニュース関連サイト
■休日の過ごし方:「バンブラ(バンコクをぶらぶら散歩)」します
現在の東南・南アジア経済をどう考えますか
バンコク駐在員事務所で12ヵ国を所管しています。各国ともプラス成長ですね。経済発展に重要なのは人口です。インドネシアは約2億5000万人、フィリピンは約1億人、ベトナムは約9000万人、タイも7000万人弱います。しかも概ね人口が増えているだけではなく、平均年齢が若い。次代を担う若者や子どもが多いということは、将来が明るいとみていいでしょう。国別に見るとミャンマーはまだインフラが整っていませんが、人口は6000万人で、人件費もまだ低い。伸びしろが大きく、今後が期待できる国ですね。インドですが、人口大国であり、年間7%の経済成長を続けています。最近減速気味の中国経済の影響を受けにくく、インフラもまだまだ問題はありますが、英語力も高い。日本の中小企業はもっと進出先としてインドに注目すべきですね。私も先日、インドでセミナーを行いました。
タイはいかがでしょう
自動車購入の税優遇をやめたことで、少し経済の動きは鈍くなりました。それでも年間2%〜3%の成長率があるのはすごいことです。さらなる成長を期待していますが、タイへの影響の大きい中国経済の動向は気になります。
日系中小企業の所管エリアにおける動きと影響はどうですか
現在の日本政策金融公庫は中小企業金融公庫、国民生活金融公庫、農林漁業金融公庫の3つが統合して誕生しました。つまりは、あらゆる産業をカバーしているわけです。これまで製造業は盛んに進出してきましたが、私は今、第一次産業に注目をしています。近年、タイ向けの日本産農林水産物の輸出は拡大傾向にあります。また、タイに進出し、日本の栽培技術で農業を開始する日本の生産者も少しずつ増えております。情報提供や資金面で我々はバックアップします。日本産は高価ですが、各国の所得が上がり、円安が続けば、良さは伝わります。
製造業に目を転じると
タイには自動車関連企業が多く進出していますが、現状は厳しい状態です。そこで自動車以外の分野にも活路を見いだしていただきたい。そのような積極的な企業は増えてきています。タイ政府としても、より高付加価値を生み出す企業に進出してほしいわけです。日本には高度技術を持つ中小企業は数多くあります。タイ政府の姿勢は今後の進出企業にとって追い風です。
中小企業支援策を聞かせてください
新しいチャンスをつかんでいただくために、我々がバンコク国際貿易展示場(BITEC)で商談会を開催しています。2015年12月は過去最高の約260社が参加し、大盛況でした。商談会に対するニーズは大きいですね。販路拡大などの商機が生まれます。そして交流会(セミナー)も開催。当社の顧客と、大企業といった顧客以外とが参加し、結びつきができます。さらには当社取引先で構成する「お客様の会」の存在も大きい。同じ公庫のつながりが、安心感を生み、スムーズに話が進みますよ。この会はタイだけでなくインドネシアやベトナムにもあり、忌憚なく意見交換ができる少人数の話し合いを活発に行っています。また、私自身も「ご用聞き」にうかがいますよ。各国を飛び回り、顧客からの意見を聞いています。1週間でシンガポール、マレーシア、インドネシアとまわったこともあります。
金融面ではどうでしょうか
日本と異なり、東南・南アジアでは中小企業が円滑に資金調達を行うのは困難です。そこで我々の支援が必要となってきます。スキームはスタンド・バイ・レター・オブ・クレジット(SBLC)という信用状を当社が発行します。そして現地の銀行から、現地流通通貨により、中小企業が資金を調達することができるというわけです。また、日本の中小企業に対しては当社から米ドルの貸付も行っております。ここ数年、海外展開支援においてさまざまな施策を打っています。情報面と金融面、両輪から支援しますよ。
海外での経歴は
大学まで海外に行ったことがなく、転勤がないという理由で、当社の前身にあたる中小企業信用保険公庫に入社しました。ところが米シカゴ大へMBA留学に出たのを皮切りに、インドネシアにも派遣されました。そこで中央銀行で中小企業に対する金融支援制度の指導を担当。そして今はバンコク駐在ですから、人生とは予想がつかないものですね。
編集後記
田原氏の目が変わったのは、日本の第一次産業への期待を語った時だった。環太平洋経済連携協定(TPP)への参加も決まったが、「農業関係者には支援するから海外に飛び込んでほしい」と、農産物の品質には太鼓判を押す。また海外へ飛び出し、人材育成にいそしむ日本人シニアには尊敬の念を向ける。「定年後に熱意を持って海外に出る人が増えている」と語る田原氏。経済活動にとどまらず、その国の発展に貢献する日本人に大きな期待を寄せているのは間違いない。(斯)