タイがひとつになった日
10月26日10時。王宮前広場近く、大ブランコ「サオ・チンチャー」を起点に、献花のための大行列ができていた。杖をつく老人、額に汗を浮かべて眠る子を抱く夫婦、北部から訪れたのか、民族衣装を着た人々も。黒い人波が押し寄せ、列はますます長くなっていく。政府は27日、火葬式のため式場に集まった国民は23万243人に上ったと発表した。
崩御から約一年。タイ全土の約6500万人の目が、意識が、火葬式場に注がれた。世界のニュースは、ブータンのワンチュク国王や日本の秋篠宮ご夫妻を含む40カ国以上の王族、国家元首が参列に訪れたことを一斉に報じた。タイに住む人ならば、前国王の偉大さと影響力を改めて感じたのではないだろうか。
26日午前9時から、前国王の棺を乗せた神輿が火葬式場に向け出発。ラマ10世、プラユット暫定首相が加わる約5600人規模の葬列が、祈る人々の前を行進した。そして午後10時、点火。テレビ放送は行われなかったが、王宮前広場周辺からは天に向かって立ち昇る煙が見られた。
葬儀のライブビューイングが行われていたエムクオーティエでは、1年前の崩御を報じる映像に涙する人も見受けられた。スクリーン前に腰かけていた女性は、「あの時を思い出すと悲しみでいっぱいになります。前国王への感謝の念が堪えません」と語ったが、続けて「悲しむのは今日が最後」と涙を拭きながら笑顔を作った。
前国王最大の功績は、4400ものロイヤルプロジェクトを成し遂げたことだけではない。国を憂い、国の発展と国民の幸せに胸を砕き、祈り続けたことだ。献花に訪れた人々の顔には、“父”との別れに対する悲壮感はすでになく、生涯を通して国の発展に寄与した前国王への感謝に満ちていたように感じた。この日、前国王の前で、国民の心はひとつになったに違いない。
これからは、哀しみを生きる力に変えて。「幾星霜を超え、母国のために……」。