「タイ代表をオリンピックへ」 元フィギュアスケート選手の決意

世界を舞台に闘う現役生活にピリオドを打ったのは、22歳の時。
同時に舞い込んで来たのは、タイ代表チームのヘッドコーチ就任でした。
指導者として来タイし、6年目。村元小月さんが思い描く未来とは。

2013年8月。当時のタイのフィギュアスケート(以下スケート)競技人口は、約50人。そんな後進の地に飛び込み、タイ代表チームで指揮を執るのが、村元さん。浅田真央さんの同期として、国際大会で何度も表彰台に上った経験を持つ彼女は、タイのスケート連盟から依頼を受け、指導者の道を歩み始めました。

来タイ当初は、戸惑いの連続。世界のトップレベルを目指し、練習に励む選手はごくわずか。スケートに対する意識や取り組み方に加え、生活文化も大きく異なるタイで、ジレンマを強く感じることも。

「日本でもそうですが、スケートを始めるには資金面のサポートが必要です。現在レッスンを受ける選手は、ほとんどがタイの富裕層の子どもたち。何でも与えられる環境で育ってきたため、少し厳しく言うと辞めてしまう子が多いのが現状です。当初は私だけが一生懸命で、選手との温度差を肌で感じていました。指導者としては、もっと上達させてあげたいと思うんですが、本人にその気がなければ成長できません。日本の選手はどんなに厳しい練習でも必死にやり続けるし、ケガをしてもリンクに立つ。それが当たり前だったので、ショックはありましたね」。

ただ、ここは日本じゃなくタイ。日本の厳しさを求めても仕方がないと気持ちをシフト。選手とコミュニケーションを多くとることを大事にしながらタイの文化を学び、少しずつ信頼関係を築いていきました。

月日を重ね、一生懸命
頑張れる選手が増えてきた

「とにかく3年は頑張ろう」。そう心に決めて始まったタイ生活は、いつの間にか6年目に突入。BTSサムローン駅そばにあるタイ唯一の競技用・正規スケートリンクで、日々レッスンを行っています。

代表選手以外も含めて、レッスンは完全マンツーマン。6歳から19歳までの選手が所属し、睡眠時間を除けば、一日の半分は氷の上だという村元さん。徐々に、厳しい練習を求める選手や国際大会に出場できる選手が出てきたと、表情を和らげます。「考え込む性格なので、時には気楽にやりなよと言われることもあるんですが、氷の上に立つとスイッチが入っちゃうんですよね(笑)。全員の意識を一気に変えるのは難しいですが、月日を重ねることで、頑張れる選手が少しずつ増えてきました」と手応えを口にし、「最近やっと、競技者人口が100人を超えたんです!」とその目を輝かせます。

そんな村元さんが選手たちに何よりも伝えたいのは、スケートを“楽しむこと”。自身の現役時代、ケガや不調の時期を乗り越えられたのも、純粋に楽しむ心を思い出せたからだと振り返ります。

「まずはスケートを楽しんで、好きになってほしい。できないことができるようになって楽しさを見つける子もいれば、滑って踊るだけで楽しいと感じる子もいる。一人ひとりに合わせて、楽しいと思うポイントを引き出せるよう心がけています」。

見据える先は、タイ代表選手のオリンピック出場。もちろん、その道のりが容易でないことは、世界で闘ってきた村元さん自身が一番よく知っています。そのためにも、幼い頃から基礎を身に付ける必要があると言い、週1回のお試しレッスンをスタート。スケートを始めたいと思う子どもが増えることが、オリンピックに繋がるのだと   「4年後……は難しいですが、8年後かその次か。選手を送り出すまで、辞められないですね」。パイオニアとして、村元さんの挑戦は続きます。


ショッピングモール内にあるリンクでレッスン中の村元さん(左)。インタビュー時とは一転、指導者の顔に


PROFILE
村元 小月
Satsuki Muramoto
1990年生まれ、兵庫県出身。8歳からフィギュアスケートを始め、13歳から国際ジュニア選手権(シングル)に参戦。2010年国際大会(トリグラフトロフィー)優勝。12年末に引退。13年8月からタイ代表チームのヘッドコーチに就任。趣味は音楽・映画鑑賞。妹は、アイスダンス平昌五輪代表の村元哉中(かな)選手。


Imperial World Samrong Ice Skating
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Address: 5th Fl., Imperial World Samrong( BTSサムローン駅直結)
Telephone: 02-380-4230
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編集部より
幼少期、父親の仕事によりタイで暮らしていたという村元さん。まさか、こうして代表チームの指導者として戻ってくるなんて思ってもいなかったことでしょう。この縁が、どんな未来に繋がるのか。いちファンとして応援していきたいです


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