地球にやさしい“炭の粉” 親子で追い求める可能性

初めてのタイ生活は1988年、駐在員として。2度目は2011年、現地企業の
アドバイザーとして。その時に出合った廃材から、炭を使った事業の立ち上げを
決意した喜多村美孝さん。その根底にあるタイへの想いを尋ねました。

土に撒けば土壌改良、土壌軟化・連作障害防止、肥料削減、収穫量アップ&品質向上。水に流せば水質改善、エサに添加すれば肉質改善、飼育場所に撒けば悪臭改善、除菌効果―――。そんな幅広い可能性を追求し、奮闘するのが喜多村さん。30年以上のタイ生活を経て、「タイのために自分は何をしてきたか?」という問いかけを繰り返し、辿り着いたのが、“粉炭(ふんたん)”でした。

「駐在員時代にも『タイのために』と言っていましたが、今思えばそれは会社のためだったのかな」と小さく吐露。2011年にタイ企業のアドバイザーとして再びタイ生活をスタートさせた喜多村さんは、その想いを体現していきます。「車の牛革シートを製造する企業だったのですが、牛革を仕入れた後には輸送時に使われていた木のパレットが廃材として大量に残るんです。それを再利用して、タイに役立つ“何か”に活かせないかと思ったのがきっかけでした」。その時に見つけたのが、島根県にある「山本粉炭工業」です。すぐに研修を申し込み、製造方法を習得。「炭粉の効果を目にして、惚れ込んじゃって。これをタイに発信することで、タイに恩返しできるかもしれないと気持ちが固まりました」。そうして、2014年に「Yamasen Asia R&D Ltd.」を設立。粉炭作りに舵を切っていきました。

農業の枠を越えて、
タイ全土に届けていきたい

けれど、日本でうまくいっていた炭作りが、タイでは失敗の連続。苦戦していた時に、休暇を利用して来タイしていた息子の昭吾さんが「やらせてみて」と志願。驚くことに、外も内もしっかりと火が通ったムラのない“理想の炭”を作ってしまったのです。「タイで日本のやり方を踏襲してもダメなのではと疑問が湧き、微調整したんです。知識がないからこそ、客観的に改善点が見えたんだと思います」と昭吾さんは振り返り、喜多村さんは「悔しくて認めたくありませんでしたが、息子のやり方でやっていこうと決めました」と笑います。同時に、日本同様に使用していた原材料の木のチップを、タイならではのヤシの皮(外果皮)へ変更。ヘチマのように空間(隙間)が多く、炭作りは困難と言われていたヤシの皮ですが、呼吸能力に優れているため一般的な炭よりも空気清浄能力がとても高いという利点も。独自の技術で製造方法を確立し、親子二人三脚で走り出しました。

サンプルを通して、「収穫量が2倍に増えた」「作物の質が安定した」「メロンが甘くなった」など効果を実感する声を獲得。けれど……導入までには至らず。

「タイの生産者の間では、いい作物が実るかどうかは“お天道様と政府次第”という考えが今も強く残っています。みなさんに納得してもらうためにもまず、タイに住む欧米や日本の人たちに普及しようと頭を切り替えました。長期戦ではありますが、確実にタイに還元できるように」と、喜多村さんは想いを口にします。

我慢の時期は続きますが、当初は農業にと考えていた粉炭が食品の保存剤や酵素風呂への利用されるなど、新たな活用の場も広がっているのだそう。

「農業はもちろん、他にも粉炭とマッチする“何か”があると思っています。ヤシの皮(ココナッツ)の成分を生かした美容製品など異分野と掛け合わせることで、タイの人たちにもっと知ってもらえれば」と昭吾さん。父から始まった“恩返し”は息子へリレーし、次の時代へと繋がります。


特殊構造の窯から取り出された粉炭(半分は粉状、半分はまだ原形が残る)。一度に大量生産が可能


PROFILE
喜多村 美孝
Yoshitaka Kitamura
1948年生まれ、大阪府出身。98〜2005年、駐在員として来タイ。11年、アドバイザーとして2度目のタイ生活をスタート。14年に代表取締役として「Yamasen Asia R&D Limited」を設立。趣味はランニング(マラソン)。


PROFILE
喜多村 昭吾
Shogo Kitamura
1983年生まれ、埼玉県出身。2015年、父・美孝さんの事業に合流し、タイ全土を駆け回る。


Yamasen Asia R&D Limited
注目! YAMASEN炭 土壌改良剤YOMIGAERI
土壌改良用としてスタートし、現在は従来炭にするのが困難なヤシ皮(ココナッツの外果皮)を原材料に、高い空気清浄能力と手で潰せる柔らかな炭を生産。寝具などへの流用も検討中。詳しくは下記までお問い合わせを。
[問い合わせ]
Telephone: 095-269-1010(喜多村昭吾)
E-mail: biochar_thailand@yahoo.co.jp


編集部より
親子だからこそ、時に強い言い合いになると話していたお二人ですが、取材時、昭吾さんの話を優しく頷きながら見つめていた喜多村さんの姿が印象的でした


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