50歳をタイで迎えた今西さんに芽生えた、「タイに貢献したい」という想い。
そんな時、アカ族の子どもたちへ教育・自立支援を行う「アブアリ財団」のアリヤさんに出逢いました。現在、二人が取り組む活動、そしてアカ族の未来について。
今西さんがタイに移住したのは17年前。アジアを中心に世界各国を旅していた時に、タイの居心地の良さに魅了され、移住を決めたのだそう。「移住後はスポーツ用品の輸出事業を営んでいましたが、50歳を迎えた3年前に、楽しく暮らさせてもらっているタイに、何かしらの形で貢献したいと思ったんです」。
そうして、一般社団法人「国際環境蘇生基金(GLOBE)」の活動に参加。化学肥料を使わない農業方法を伝えるために訪れたチェンライで出逢ったのが、国籍がないアカ族の子どもたちを支援するNGO団体「アブアリ財団(以下アブアリ)」を運営するアリヤさんでした。「運営が厳しいという話を聞き、それなら私が『支援の支援をしよう』と申し出ました」。
今西さんは、自身が参加する日本人起業家ネットワーク機関「WAOJE」タイ支部などで、日本人に向けてアブアリの存在を発信。同時に、プラスチックや軽金属で作られている工業製品の原料として、近年注目されるナノセルロースがケナフ(植物)から作られることを知り、日本の開発者をチェンライに招いて、技法を習得。今年4月、本格的に栽培を始めました。「ケナフから作られるナノセルロースは、鉄鋼に比べて5倍の強度で、重さはその1/5。高いCO2吸収率を誇り、地球にも優しい。そして製造業に活用できることから、お米やコーヒーといった農産物よりも収益が高い。この流れが出来上がれば、新しい自立のカタチを提案できるかもしれない」と期待を込めます。
初めてバンコクを訪れたアカ族の子どもたち(前列)は、「ドキドキする!」と目を輝かせていました
アカ族と日系企業を繋ぐ
パイプ役を目指します
自身もアカ族であるアリヤさんが、アブアリを立ち上げたのは1996年。当時、チェンライ市内から車で1時間半の場所で暮らしていたアカ族の子どもたちは、家の近くに学校はなく、市内の学校に通うには遠過ぎる。そんな教育を受けられない子どもたちのため、支援寮「夢の家」を開設しました。「学校に通えない子どもたちは、一般教養も知らず、一生、低所得者として過ごすしかない。子どもたちの未来の選択肢を増やすためにも、教育が必要だと思ったんです」。
これまでに寮で暮らした子どもたちは、7歳から16歳までの延べ120人ほど。アリヤさんは教育支援とともに、子どもたちの自立に繋がるための道筋を日々、考えていると言います。「国籍がないということは、それだけでハンディがある。教育や保険のサポートもそうですし、許可なくチェンライから出ることもできません。けれど、子どもたちには未来を諦めてほしくない。人生を前向きに考えられるよう、背中を押していきたいです」と、アリヤさんは力強く言葉を紡ぎます。
そんな二人のもとに今年、ある日系企業から講演依頼が届きました。「アブアリの存在を知ってもらうチャンス」 。そう意気込んで挑んだ10月の講演会には、アマタシティ工業団地で働く日系企業のスタッフ40人が参加。大きな反響を獲得し、来年2月には、参加者を招いた現地訪問ツアーの約束を結びました。
「みなさん熱心に聞いてくれ、ケナフ(ナノセルロース)について前向きに検討してくれる方もいました。今回を機に、子どもたちと日系企業に繋がりができればと思いますし、私がパイプ役として、子どもたちがタイの日系企業で活躍できるようサポートしていきたい」。アリヤさんから今西さんへ、そして企業へ。アカ族の未来が今、新たな形で開き出しています。
PROFILE
今西 勉
Tsutomu Imanishi
1965年生まれ、兵庫県出身。90年、仕事を機に来タイ。2001年にタイへ移住し、スポーツ用品の輸出会社を設立。15年から一般社団法人「国際環境蘇生基金(GLOBE)」のメンバーとして、タイ北部で農業支援を開始。翌年、同地でアリヤさんと出逢ったことを機に、「アブアリ財団」の支援を開始。www.globe.or.jp
アブアリ財団
アカ族の子どもたちの
教育・自立をサポート
1996年設立。村落教育、伝統文化の保存と異文化交流、環境保全、手仕事を活用した副収入の確保を柱に活動。子どもたちの里親やご支援頂ける方を募集しています。詳細は下記まで。寄付先は「タイ支援活動ミニマム」。
[問い合わせ]
Address: 341 M.1 Ban Noangdan Soi 11, T.Robwiang, A.Muang, Chiangrai
Telephone: 081-020-0377(日・タイ語)
Email: ariyacmcr@gmail.com
Website:Ariya Rattanawichaikul
編集部より
農業研修生として鹿児島で1年間暮らしていたアリヤさんは、日本語が堪能。支援への感謝を口にする一方、「頼るばかりでなく、自分たちで解決できる力を子どもたちには養ってほしい」という言葉が印象的でした(山形)
取材・文 山形 美郷