タイでかるたに出逢い、タイから日本の大会に通いながら、一つひとつ
階級を上げてきたイーブン美奈子さん。今年11月、日本で行われた
世界大会にタイチームを率いて参戦。そこで見つけた、次なる目標とは。
平安時代を中心とした歌人の詠んだ和歌を、札に刻んだ百人一首。上の句と下の句に分けられたその歌を聞き、札を取り合う「競技かるた」に、美奈子さんはタイで初めて出逢いました。「1999年にタイに移住したのですが、2005年に設立された『クルンテープかるた会』の発起人・ストーン睦美さんと知り合ったことをきっかけに、かるたを始めたんです」。
かるたの試合は、接戦になると1時間以上。畳の上で相手と向き合い、時には汗を流しながら札を取り合うという、身体的にも精神的にもハードな競技です。平安文学が好きで、短歌や俳句を詠んでいたという美奈子さんは、負けず嫌いな性格も伴い、どんどん競技かるたの世界にのめり込んでいきます。
「運動は大の苦手なんですが、負けたらやっぱり悔しい。自分の何がダメだったか反省を繰り返し、かるた会で練習を積むようになりました。正直、大変なことも多いですが、勝った瞬間にすべてが報われるような中毒性がある。私は常に、その瞬間を求めているのかもしれません」。
そんな競技かるたの強さの証は、AからEまでの5段階に分けられたランクにあり。昇級のためには、日本の大会に出場し、勝つことが必須条件です。毎週のように各地で大会が開かれているものの、国外在住者にとって大会への参加は、決して容易なことではありません。美奈子さんは年1、2回の一時帰国で、大会参加を継続。数少ないチャンスで勝利を掴み、6年をかけて、海外在住者初となるA級入りを果たしました。今年11月に滋賀県で行われた世界大会に出場した、タイ人選手と共に
選手を育てるには、
まず自分が強くなること
そうしてかるたに取り組む一方、「クルンテープかるた会」の一員として、タイの高校や大学で行われていた、日本語を学ぶ生徒たちに向けたかるたの講習会をサポート。また、同かるた会にタイ人会員が増えるにつれ、熱意を見せる生徒や学生も増加したと美奈子さん。「生徒の手本になるためにも、強い選手を育てるためにも、自分自身が強くならなくてはという想いが自然と芽生えていました」。
今年11月3日、かるたの聖地と言われる滋賀県近江神宮で行われた世界大会では、タイチームの指導者として選手を引率。アメリカ、ブラジル、フランスなど計7カ国が参加するなかで、第3位。漫画『ちはやふる』の影響により、外国人競技者の増加を肌で感じるとともに、自分自身の力不足も実感したのだそう。
「世界大会の翌日、B級選手の一人が昇級をかけて大会に参加したんですが、結果は敗退。彼女には優勝できる能力があったのに……。敗退は、私の責任だと感じました。日本にいれば、かるた会や部活など高いレベルに触れる環境がありますが、タイではそうはいきません。A級に慢心することなく、私自身の実力を高めることが、タイ人選手全体のレベルアップに繋がると、改めて胸に刻みました」。
その先に見据えるのは、タイ人選手のかるた世界一。美奈子さんは選手に対して、自分が培ってきた技術と経験を感じて、盗んでほしい。そして、周囲の目を変えてほしいと口にします。
「外国人がかるたをすると、それだけで特別視されるのですが、私は国籍関係なく、日本人と同じ土俵で純粋な実力を見てほしいと思いますし、周囲を圧倒するくらい、選手には強くなってほしいですね」。日本で受け継がれて来た競技かるたが今、タイで新たな芽を出しています。
PROFILE
イーブン 美奈子
Minako Yeeboon
1976年、神奈川県出身。1999年、タイに移住し、タイ人と結婚。2007年、「クルンテープかるた会」に入会。同会メンバーとしてタイ人へ向けたかるた指導を開始する。10年1月、D級大会で優勝し、初段を獲得。13年、海外かるた会所属選手初のA級(四段)に。タイの好きなところは、タイ語の美しい響き。
バンコクかるた大会
12/9(日)@シーナカリン大学
日本人・タイ人共に参加者募集中
「クルンテープかるた会」が、毎年12月に主催する大会。団体戦9:00〜12:45/個人戦13:00〜17:00(受付は9:00〜9:50)。参加費100B(タイ人無料)。かるた会の練習は毎週日曜12:30〜17:00(初心者講習は12:30〜13:00)、パーソネルコンサルタント社ギャラリーにて。
[問い合わせ]
Telephone: 090-970-1256
Email: minakobar@gmail.com
Website:minakobar.wixsite.com/karuta
編集部より
札を取り合うだけでなく、日本語の美しい音や響き、当時の暮らしを知ることができる文化的な側面など、競技以外の魅力も教えてくれた美奈子さん。まずは私も、和歌に触れることから始めよう