おじい様は、世界初の電気釜発明者。日本でITシステムエンジニアに従事し、
40歳を目前に「青年海外協力隊(以下JOCV)」に応募した三並さん。国営の中高
一貫校でコンピュータ技術を伝え、“ハッカソン”大会で生徒の興味を育んでいます。
バンコクから南へ飛行機で約90分。日本人在住者が片手ほど、中国文化が色濃く残るトラン県で、教鞭を執る三並さん。国政として掲げられた高度産業人材育成の支援をすべく、タイ全土に12校を展開する「Princess Chulabhorn Science High School (以下PCSHS)」トラン校に、2017年1月からJOCVとして派遣。学校は全寮制、授業料はすべて国が負担。そんな恵まれた環境を求め、高倍率を勝ち抜いた優秀な生徒が集まっています。「祖父の存在があり、物心ついた頃から『ものづくり(テクノロジー)を通して、人を幸せにしたい』という想いが芽生えていました。それは今でも、私の人生の核になっています」。
そう話す三並さんは、コンピュータ技術職種のJOCVとして授業を担当。プログラミング言語の習得やネットワーク構築といった基本的な分野と、生徒が興味のあるテーマを1年を通して学習する「プロジェクト」分野の2つを軸に、WEBサイトやスマホアプリの作成、ゲーム制作など、生徒の“創りたい”をサポートしています。「全部教えては生徒たちの実になりませんが、アイディアが一切ないとやる気自体が削がれてしまう。さじ加減を見ながら、声をかけています」。
しかしながら、共通言語はタイ語。来タイ前に研修を受けたとは言え、会話の速さは段違い。だからこそ、より詳細な資料や図を使った説明など、言葉を補い正確に伝えられるよう工夫。時間を経て、生徒が職員室を訪れ、質問してくるようになったと三並さんはうれしそう。
ハッカソン大会タイ予選にて真剣な眼差しの参加者たち。限られた時間の中でゴールを目指します
ただのゲームじゃなく、
“人を幸せにできる”システムを
一方、優秀な生徒が集まりながら、コンピュータ技術に興味を持たない生徒も少なくないというジレンマも。「プログラミングを必要のないものと考える生徒たちに、いかに興味を持ってもらえるか」。各地のPCSHSに派遣された、三並さんを含めた5人の隊員は、同じ悩みを抱えていたと振り返ります。その答えとして辿り着いたのが、「ゲームプログラミング“ハッカソン”大会」の立ち上げでした。
ハッカソンとは、大会当日に発表された課題について、参加者メンバーで即席チームを組み、その出来栄えを競い合うもの。「大会をきっかけに、プログラミングに興味を持つ子が増えてほしい」そんな想いを込め、タイ予選を勝ち抜いた上位3チームには日本で開かれる本戦出場という“名誉”も用意。
打ち合わせを重ね、迎えた昨年11月の第1回大会では、PCSHS12校から選抜された高校1年生の各3名が参加。生徒たちの熱心な姿勢に、三並さんは確かな手応えを感じたと言います。そして第2回大会では、タイの社会問題をテーマに追加。「ただの趣味で終わらない、ゴミや渋滞などタイ社会への問題提起に繋がるものを創ってほしいと思ったんです。優勝には技術や対応力の高さはもちろんですが、即席チームでいかに密な話し合いができるかが重要だと感じました」。また、大会を機に各学校の教員との関係性も深まり、JOCVの存在意義を示すきっかけにもなったのだそう。
そんな三並さんの任期は、来年1月で終了します。 「トラン校でやってきたことがゼロになるのではなく、ハッカソン大会も継続できるよう、しっかりと引き継いでいきたいです」。これからのタイを背負っていくであろう教え子たち。三並さんはその成長を、任期終了後もタイで見守ります。
PROFILE
三並 慶佐
Keisuke Minami
1976年、神奈川県出身。ITシステムエンジニアとして企業勤めし、2007年自身で起業。17年1月、JICAのコンピュータ技術職種隊員として「Princess Chulabhorn Science High School」トラン校にて勤務開始。同年11月、同じ青年海外隊員と共に新規大会「タイ・日 ゲームプログラミングハッカソン大会」を立ち上げ。19年1月に任期終了予定。タイの好きなところは人の穏やかさ。
タイ・日 ゲームプログラミングハッカソン大会
タイと日本の高校生が
参加するハッカソン大会
タイのPCSHSと日本の高専の高校生が、ハッカソンスタイルでゲームを開発し、切磋琢磨して技術を高め、国際交流を行うイベントです。JICA、タイ教育省、高専機構が協力し、今年で2回目の開催。
Facebook:Thailand-Japan Game Programming Hackathon
編集部より
「姉のよう」と三並さんが慕う先輩教師・ミンさんと共に出迎えてくれた今回の取材。校内の廊下や中庭など、教室以外のフリースペースで自主学習に励む生徒たちの姿が印象的でした