長谷場:前回、タイの大臣になるためには「大学卒業または同等以上の学歴が必要」という条件が憲法に書かれていると説明しました。さて、実際にどんな方々が大臣をされているかというのを、経済関係の大臣を中心に見ていきましょう。
ミィ:楽しみー、よろしくお願いします。
長谷場:最初に、経済担当の副首相ソムキット・チャトウシビタックさんです。この方がタイの経済政策を策定・実施するリーダーで、他の経済関係の大臣と合わせて“チームソムキット”と言われることもあります。ソムキット副首相はタイの名門タマサート大学を卒業した後、タイ国立開発行政研究院(NIDA)で経営学修士(MBA)を取得。さらに、アメリカのイリノイ州にあるノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院で経営学博士を取得しています。
ミィ:博士で大臣!
長谷場:ケロッグでは「近代マーケティングの父」とか「マーケティングの神様」と言われて世界的に有名なフィリップ・コトラー教授から学んでいます。実は2013年に日本経済新聞の「私の履歴書」という欄でコトラー教授が自伝を書かれていました。その中に卓越した教え子の一人として、ソムキット副首相の名前が出てきました。
ミィ:“卓越した教え子”として名前が出てくるって、すごいですね。
長谷場:そうですね。ソムキット副首相は、タクシン政権の時にも副首相や財務大臣を務めていたんです。
ミィ:タクシン政権でも軍事政権でも必要とされるって、本物の実力者なんですね。
長谷場:このケロッグで学んだタイの大臣はソムキット副首相だけではありません。ウッタマ工業大臣はケロッグで修士(MBA)を取得し、その後マサチューセッツ大学アマースト校で博士を取得しています。
また、スヴィト科学技術大臣はソムキット副首相と同様に国立開発行政研究院(NIDA)でMBAを取得した後、ケロッグで博士を取得しています。
ミィ:憲法で定められた「大学卒業」どころか、「博士」ですね。
長谷場:その他にもアメリカで学んだ大臣はたくさんいます。例えば、コプサック首相府大臣はマサチューセッツ工科大学(MIT)の博士、ピチェート・デジタル経済社会大臣はペンシルベニア大学の博士、アピサック財務大臣はテネシー大学の修士、アーコム運輸大臣はウィリアムズ大学の修士を持っています。
ミィ:ひゃ〜、超エリート集団。
長谷場:タイは日本より「学歴重視社会」ということが背景にあるのですが、それにしても凄いですよね。ソムキット副首相とアピサック財務大臣はタイの有名な高校の同級生ですし、ウタマ工業大臣も同じ高校を卒業しています。軍事政権はタイ人の超エリートを集めて、軍人としては苦手な分野を任せたということですね。
ミィ:適切な人事ですね。
長谷場:EECの回で「イノベーション」「Sカーブ」「(電気自動車などの)ターゲット産業」という政策を勉強しました。これらは次々とイノベーションが起こってGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)に代表される新しい企業が急成長する、そんなアメリカから得た発想なのかもしれません。
ミィ:アメリカから始まるんですね。
長谷場:一方、タイの日系企業は、目の前の現場で起こる問題にどう対処しようかと、日々悩んでいます。このため、タイ政府の政策と日本企業の悩みの間にギャップが生まれているんじゃないかなと、思うことがあります。
タイで活動している日系企業としては、どういう方々がタイ政府の政策を決めているのか、ということとその背景は理解しておいたほうがいいですね。
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