タイに暮らして20余年。共に移住したご主人とは死別し、女手一つで我が子を育てて来たMimiさん。ふと立ち止まり、自分がやりたいことを考えた末に辿り着いたのが、歌の世界でした。彼女が気づいた“声の可能性”とは。
国民の父と慕われた、故プミポン国王が崩御した2016年10月。直後、外国人による追悼歌の歌い手として、Mimiさんは日本人で唯一指名を受けました。当時、ジャズシンガーとして活動を始めてまだ３年ほど。実績や経験を覆し、その舞台に立ちました。「日本人代表として参加できたことは、本当に光栄な限りです。今でもそうですが、人との縁、周囲の支えには感謝してもしきれません」と静かに、芯のある声を響かせます。
Mimiさんが音楽の道に足を踏み入れるきっかけは、多忙ゆえの体調不良。その時に“自分が本当にやりたいこと”を模索し、「自分の声を生かしたい」と思い至ったのだそう。とは言え、基礎がなかったMimiさんは、バンコクで開かれていたボイトレ講習会に参加。そこで、師となる人物に出逢い、仕事を辞めてトレーニングに専念します。そして、「自分の“声の質”が変わった」と手応えを感じた１年後には、大きなステージでのライブ依頼が次々と舞い込むようになったのだとか。
「それまでも不定期でライブをやっていましたが、声の質が変わってから、まったく知らない人からも出演を打診されるようになって。五ツ星ホテルや有名なライブハウスにも呼ばれるようになりました」。時には、タイのジャズ界の重鎮に囲まれながら、ステージに立つことも。声を掛けられた嬉しさ以上に、当初は緊張とプレッシャーに襲われ、逃げ出したくなるほどだったと振り返ります。けれど、「こんなチャンス、この先あるのか？」と自問自答。“不確かな次”を待つのではなく、目の前にあるチャンスに挑んできました。
バンコク・スリウォンロータリークラブで、講演者として前に立つMimiさん
声は、自分自身の履歴書。性格と環境が反映される
2017年には武者修行のためアメリカへ。現地のトレーナーに会ってすぐ、「まず自分を表現して」と言われ、痛感したのがオリジナリティの必要性でした。上手く歌えることは大前提。音に対して、自分の想いをしっかりと乗せる表現方法―――。Mimiさんは技術以上のものを学び、一つ上のステージに進みました。
さらなるレベルアップを目指しながらも、自身のライブでの役割を“場づくり”とMimiさんは表現。一人よがりではなく、相手に向けたライブを大切にしているのだと。「ただ上手く歌うだけなら、機械と同じ。国籍や年齢など、その日その場に集まった異なる人たちに向けた選曲や、合間のMCを含めたすべてが、私の役割だと思っています。最高のライブは、観客を巻き込んで“楽しい”を共有することだって、タイのミュージシャンから教わりました。私のライブを見て楽しい気持ちになれたり、癒やされたと少しでも多くの人に感じてもらえたら嬉しいです」。
そんなジャズシンガーと並行して、Mimiさんは６年前からボイストレーナー業もスタート。日常会話からビジネスに通ずる発声練習まで、さまざまな受講者が通っています。「歌うこと、話すことの根底は同じ。メロディに言葉を乗せるか否かの違いだけで、体の中で音を響かせることは共通です。私自身、声が変わったことで人生が変わりました。そう実感するからこそ、もっと多くの人に声の可能性を伝えていきたい」。
ステージに立てば、自身の歌声を通して観客を楽しませる表現者。ステージを下りれば、未知なる可能性を引き出すサポーター。Mimiさんは自身を振動体として、想いを乗せた声を発し続けます。「変われるチャンスは、すぐそばにある」と。
PROFILE
Mimi
大阪府出身。ボーカリスト、ボイスコーチ。今から20年以上前、ご主人と共に渡タイ。2013年、ジャズシンガーとしての活動を開始。ライブハウスやホテルなどさまざまなイベントに出演。17年、シリワンナワリー王女の生誕祝いのため、タイ王宮（スコータイパレス）に招かれた唯一の日本人。タイ語・英語によるMC業も務める。
ライブ＠VIE HOTEL
2/22（金）18:30〜22:00 ワイン飲み放題付きライブ開催
BTSラチャテウィー駅すぐそばにある「VIE HOTEL」でライブを行います。999B++でワイン飲み放題（軽食ビュッフェ付き）。また、6/6・7に行われるタイ最大のジャズイベント「ホアヒン・インターナショナル・ジャズ・フェスティバル」に出演決定！ お問い合わせは「MIMI バンコク」で検索、または下記アドレスまで。
［問い合わせ］
Email: top.of.voice.bkk@gmail.com
編集部より
仕事柄、自分の声を耳にする機会は多く、その度に気が滅入っていた私。改善せずにきましたが、「声と心体はリンクする」というMimiさんの話を聞き、自分が前向きになれる声を目指そうと思います
