沖縄に縁もゆかりもなかった髙橋由香子さんが、タイで創作エイサーに魅了され、立ち上げた「琉球舞団 昇龍祭太鼓 タイ支部」。在タイ歴21年。その先頭に立つ由香子さんに、改めてその魅力を尋ねました。
全身にこだまする太鼓の力強い音と振動。ダイナミックに腕を振り、足を高く上げ、軽やかに舞う躍動感。音楽と共に発せられる、活気溢れる掛け声。由香子さんが、目の前のパフォーマンスに心奪われたのは、ほんの一瞬のことでした―――。「とにかく、衝撃的とも言える迫力がありました。最大5キロもある太鼓を叩きながら全員が一糸乱れず踊りぬく。そのすべてに魅了されました」と、出逢いの瞬間を振り返ります。
「創作エイサー」とは、旧盆の頃に沖縄で踊られる伝統芸能「エイサー」を、季節に関わらず楽しめるよう現代風にアレンジしたもの。沖縄民謡はもちろん、ポップス曲も取り入れるというその踊りを、由香子さんが初めて見たのは大学時代。日本人会が主催する「ラムウォン盆踊り大会」に出演するため、日本から訪れていた「琉球舞団 昇龍祭太鼓」の前身団体に遭遇したのだそう。
その迫力を忘れられずにいた頃、同団体が再びバンコクで出張公演を行うと知った由香子さんは、すぐさま問い合わせ。自身も「旗持ち」として参加ができることに。内側から改めてその熱量に触れ、タイ支部開設を決心したのでした。
「まず、自分が創作エイサーを習得しなければ、入団希望者に教えられる人がいない」と、未経験の状態から特訓を開始。東京本部の代表が駆けつけ、集中的に稽古をつけてもらうと同時に、太鼓や衣装、練習場所などの確保に奔走。「太鼓は日本にしかないので、一つひとつタイに運んで来ました。とにかく必死でしたね」と吐露します。そうして1年以上の準備期間を経た2011年、「世界の人々と沖縄との架け橋に」という本部の想いを胸に、タイ支部は走り出しました。
セントラルワールドで開かれた今年の「JAPAN EXPO THAILAND」でも演舞を披露
多くの葛藤を乗り越え、見えてきた自分の演舞
練習は、由香子さんを含めた4人でスタート。メンバーへの指導を優先しながら、自身の練習時間を捻出する日々を続け、1年後には念願のイベント初出演を果たします。「エイサーは全身で表現するものであり、踊れればいい、太鼓を叩ければいいというわけではありません。足を上げる角度や太鼓の打ち方、腕を振る軌道、リズムなど作法がとにかく多いんです。だからこそ、基本的な動きを反復して体で覚えることが、上達への一番の近道」と由香子さん。週2回の練習では6分間ひたすらにバチ(棒)を回し続けることも。これまで、小学4年生から50代までの幅広いメンバーと共に、延べ30曲以上を披露してきました。
今年で結成8周年。バンコク都内や郊外で数々の日タイ交流や沖縄関連イベント、国外遠征など、これまでに立った舞台は100以上。観客は創作エイサーを初めて観る人ばかりですが、威勢よく太鼓を鳴らすと自然に手拍子が始まり、笑顔が広がっていく様子が見えると、由香子さんは充実感を口にします。
「どんなに気分が沈んだ時でも、私たちの演舞を見たら楽しいと思える、一人でも多くの人が笑顔になれる空間を作り上げたい。エイサーって、言葉がわからなくても音とリズムで楽しんでもらえるんです。タイでその魅力を知ってもらうのはもちろん、一緒に踊りたいと手を挙げてくれる人が出て来たら嬉しいですね」。
新たなメンバーを迎えるためにも、自身の技術向上を誓う由香子さん。沖縄とタイのさらなる架け橋を作るべく、今日も稽古に励みます。
PROFILE
髙橋 由香子
Yukako Takahashi
1989年、東京都生まれ。4歳の時に、親の仕事によりバンコクで生活。一時帰国を挟み、再度家族でタイへ。在タイ歴21年。アサンプション大学時代に「創作エイサー」に出逢い、タイ支部開設を決意。11年、「琉球舞団 昇龍祭太鼓 タイ支部」を開設し、代表を務める。タイの好きなところは、笑顔が溢れているところ。趣味は、劇団四季のミュージカル鑑賞。
琉球舞団 昇龍祭太鼓 タイ支部
創作エイサーをタイで発信!
東京に拠点を置く「琉球舞団 昇龍祭太鼓」のタイ支部として、2011年5月に結成された創作エイサー団体。バンコク都内及び郊外での日本関連イベントや、日タイ交流音楽フェスティバルに出演。
[問い合わせ]
Website:http://thailand.matsuridaiko-tokyo.com
Facebook:https://www.facebook.com/shoryu.thai/
編集部より
取材時、初めて目の当たりにした創作エイサー。その勢いに圧倒されながら、何よりもイキイキと舞う由香子さんの姿が印象的でした。ぜひ多くの人に体感してほしいです