米中貿易摩擦と“デモ”によるタイへの影響は?
今年の世界経済を読み解くためのキーワード「米中貿易摩擦」。
大国同士の意地の張り合いが、世界経済にも波及しているのは周知の通りで、「中国から米国へ輸出できないのであれば他国で生産するしかない」と移転へ舵を切る企業が増えている。
そしてタイは、中国に拠点を持つ企業に対し「タイに生産拠点を!」とラブコールを送っている。
そんな中、中国特別行政区の香港の投資家や企業がタイへの進出を加速させている。
香港といえば、「逃亡犯条例」改正案に端を発したデモの真っ只中。
米中貿易摩擦とのダブルパンチに嫌気が差した香港投資家がこぞってタイへの投資を検討あるいは進めているというわけだ。
タイ工業連盟によると、すでにタイへの移転を決めたとして、香港のキッチン用品メーカー「マイヤーグループ」、貿易会社「Li & Fung」などの名を挙げたほか、こうした動きを後押しする理由として、今年6月に発行された、香港とASEAN加盟国との自由貿易協定(AHKFTA)があるとした。
これにより、香港とASEAN加盟国の原産品の関税は撤廃されるからだ。
7月には、香港の投資家50人がタイ政府の招待で、東部経済回廊(EEC)地域を視察。
香港投資家の多くは、エレクトロニクス、コンピュータ部品、自動車部品への投資意欲を見せたという。
タイ投資委員会(BOI)によれば、今年上半期の香港からの直接投資(FDI)認可は21案件。
投資額は146億バーツで、中国と日本に続き第3位になった。
これは、前年比約4倍の投資額だ。
不安定な情勢が続く中、貿易にも影響は出ている。
両国の貿易額(1〜7月)は前年同期比12%減で、タイから香港への輸出も同8.1%減となっている。
影響は観光業にも及ぶ。
タイ国政府観光庁は、「2018年にタイを訪れた香港人は100万人(前年比31%増)だったが、今年(1月~9月)は同7%減少している」とした。
タイにとって、香港の投資増は喜ばしいが、主産業である観光や貿易への影響もあるため、諸手を挙げては喜べないだろう。