「人喰い殺人鬼」として世間に晒され続けた元死刑囚。 60年の時を経て今年7月、ようやく荼毘(だび)に付された。
「悪いことをしたらシーウィに喰われてしまうよ」。その昔、いたずらをした子どもに親たちはそう諭したという。
“シーウィ”とは、幼児6人を殺害してその肉を食べた罪で死刑に処され、“タイ史上最悪の殺人犯”と恐れられた中国人男性シーウィ(Si Quey)さんのことだ。
死蝋化された彼の亡骸は1959年より「シリラート医学博物館(通称・死体博物館)」の展示物となり、84年には事件を題材にしたテレビドラマが茶の間を賑わせた。
世間の風向きが変わったのは昨年5月のこと。
とあるテレビ番組内で事件の検証が行われ、冤罪説が浮上したのだ。
移民であるシーウィさんはタイ語が不自由だったとも言われ、でっち上げか否か、事の真相は現在も謎のまま。
しかし、これを見たタマサート大学法学部の一人の学生が展示の取り下げを求めて署名サイトに投稿し、2万人以上の賛同を集めている。
さらに、故人が生前暮らしていた西部プラチュワップキーリーカン県タブサケー郡内の有志らも人権委員会に名誉の回復を直訴。
こうしたことから博物館を運営するシリラート病院は身元引受人を探すも見つけられないまま8月に展示を中止し、その亡骸は刑務局に委ねられた。
葬儀が行われたのは、1年後の今年7月23日。
会場となったノンタブリー県内の寺院には刑務局や病院の関係者の他、84年のドラマで本人役を演じた俳優タートポーン氏ら約50人が参列。
厳かにシーウィさんの最後の姿を見守ったという。
粉々にされた尊厳と時間は戻せないが…。
せめて冥福を祈りたい。