偽“アンコール・ワット”で一悶着

文化の「尊重」と「盗用」の間にある、不明瞭な境界線。 世界遺産を模造したリゾートホテルが物議を醸している。

「デザインを盗んだり侮辱する気はなく、ただ壮麗なクメール建築に憧れ真似たかっただけなのです」。

5日、予期せぬカンボジア政府からの批判を受け、タイ南部・パガン島にある「ル・パレイス・ホテル」の経営者はSNS上にこう吐露し、騒動を詫びた。

4年の工事を経て2018年に完成した同ホテルは、宿泊予約サイトにも「アンコール・ワットを模したシックな施設」とある通り、四面仏塔や緻密なレリーフが施され、どこからどう見てもアンコール遺跡群を“パクリ”。

各客室には遺跡名が付けられ、とりわけ同地の寺院を再現したレストランは地元でも評判だという。

しかし、これに抗議の声を上げたのがカンボジア文化芸術省だ。

独自の宇宙観を表現し、クメール美術の最高傑作とされる同遺跡群はカンボジアの至宝。

たとえ悪意なくとも、許可なく隣国のリゾート地にビーチ付きの豪華コピー版を建てられていたとあっては憤るのも無理はない。

諸事情は違えど、同国は12年にも遺跡群の模倣建築を巡りインドに抗議・設計変更を申し入れている。

一方、パガン島観光協会の会長は「ホテルは合法に建てられたもの。

むしろ“本物”を想起させることで現地への誘客に一役買っている」と私見を主張。

同国の文化へ敬意を払いつつも、営業の継続を望むとした。

ホテルは現在、コロナ禍の煽りを受け休業中。

同県の文化事務局では、違法な工芸品などを所持していないか館内を調査しているという。

複雑な問題をはらむが、平和的な着地点が見つかることを期待したい。

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