市民を惑わす「セシウム137」と錯綜する発表。
火力発電所から消えた放射性物質の謎とは…
現在、タイでは原子力発電を行っていない。過去に原子力発電所の建設が急務だとされた時期もあったが、福島第一原子力発電所の事故などの影響で計画は先送りになっている。
だからといって今のタイが「放射性物質」と無縁かというとそうではないようだ。3月10日、東部プラーチーンブリー県の石炭火力発電所から、灰の測定器に使用されている「セシウム137」入りの金属製容器が消失したことが判明して問題化。専門機関が捜索した結果、19日に同県内の金属リサイクル工場に保管されていた焼却灰からセシウム137の痕跡が検出された。当局は「何者かによって持ち込まれ、工場内の溶鉱炉で金属容器ごと溶解された」と発表。工場は閉鎖されたが、約70人の従業員や周辺住民にも健康被害はなく、半径5km圏内で放射能汚染は確認されていないという。
しかし、さすがに世論は黙っていない。「いくらタイだからってただのポイ捨てでは済まない」、「粉塵になっていたら飛散して危険」、「発表が遅いし内容が極めて曖昧」などと手厳しい。そして何よりも不可解なのは、なぜ金属容器が火力発電所から消失したのかが謎のままであることだ。
じつは、タイでこのようなことが起きたのは初めてではない。2000年にはゴミ処理業者が不適切に処分された放射線医療機器を分解した際に放射性物質を浴びて死亡するという事故が発生。さらに過去にはセシウム137を所持していた男がバンコク都内で逮捕されてテロの可能性が疑われたこともあるという。はたして今回の“謎”は、このまま迷宮入りしてしまうのかが気にかかるところだ。