普段からお金の話には疎い自分ではあるが、バンコクに住むようになってから為替を始めとしたいわゆる“お金のこと”に少しずつ目が向くようになってきている。
そんな小さな変化の中、仕事を通じて出会った人の中に資産というものの育て方に精通する人と出会った。
久米直也さんは、バンコクで在タイ日本人のために資産運用や資産形成のコンサルティングをしている「Global Support(Thailand)Co., Ltd.」の代表。
最初にお会いしたのはまだコロナ禍が収束する前で、いろいろなことが混沌としているタイミングだった記憶がある。
僕のインタビューに対して明快そして端的に答えてくれる久米さんは自信にあふれていて、といって傲慢などではなくなんだか優しい社会科の先生のような印象を受けた。
久米さんは愛知県の名古屋出身。
高校を卒業して郵便局に入り当初は郵便物の区分けなどをしていたが、後に郵貯を担当するようになる。
これを機に自分自身が仕事に対して興味を持つように。
コンスタントに成績を上げて局から表彰されるなど波に乗り、「もしかしたら、こんな自分でも社会の役に立つのかもしれない」と感じたという。
そして19歳の時に「かんぽ生命」に転籍。
保険の仕事を通じて、人にはそれぞれ様々なストーリーがあることを痛いほど知り、同時に人から感謝される喜びを噛み締める経験を積んだ。
「保険というものの価値がわかったんです。それから自分の中に使命感のようなものがふつふつと湧いてきて、これを誰かに伝えるべきだと思いました」。
この熱い思いが久米さんを突き動かし、久米さんは保険業務で得た体験や感じたことをなんと管内の全郵便局にFAX配信した。
インプットしたことをアウトプットしてこそ新たな価値を生む。
まるで自己啓発本のタイトルになりそうなことを本能的に始めてしまったのだからすごい人だと思う。
さて、久米さんとタイの出会いは不意にやって来た。
というのも多くの人はタイとの出会いが、幼い頃に住んでいたからとか、駐在時代があったからとか、旅をしたことがあったからというもの。
しかし久米さんの場合はそうではなかった。
「かんぽ生命から外資系の保険会社に転職したのですが、“自分の壁”のようなものにぶち当たっていったんボロボロになってしまったんです」。
そのような時、久米さんの元にタイで資産運用のコンサルティング会社をやらないかという話があった。
これだから人生というのは本当に面白い。
そして2011年5月、久米さんは現在の会社をバンコクのプロンポンに設立。
以来、13年間にわたって多くの人から個別相談を受け、“お金と生き方”のアドバイスを続けている。
「資産形成や資産運用も人生における大切なものの一部かと思いますが、お金に囚われ過ぎてしまい、本当に大切なものを見失っている人もいます。また、お金という道具は使い方次第で多くの人に喜んでいただくこともできますが、自分や他人を傷つけてしまう怖さもあります。幸福度を高めていく増やし方と使い方の両方が大事かもしれません。」。
資産運用は人生の目的ではなく、自分や家族の幸福度を高めていくためのツールだという。
最後に久米さんに「究極の資産とは何でしょうか?」と質問した。
すると彼は、「子ども達です」と話のわかる社会科の先生のような笑顔で答えてくれた。