ゾウはタイの国獣として、強さ、忠誠心、そして長寿を表し、タイ語で「チャーン」と呼ばれ、タイの人々にとって特別な存在だ。しかし、そんなゾウによる襲撃事故が相次いでおり、人間とゾウがどう共生していくのか、難しい課題に直面している。
12月11日、東北部ルーイ県にあるプー・クラドゥン国立公園でタイ人女性が野生のゾウに襲われ死亡する事故が起きた。その後、当局は襲ったゾウを特定し、ヘリの飛行や音波の発信、さらに人工の塩場を作るなどし、ゾウを観光エリアから引き離すことに成功したという。
とはいえ、人間の都合でゾウをもともとの生息地から追い出すのは「非人道的」だという声も上がっていて、国立公園の観光業を廃止するべきというやや極端な意見も出ている。
ここ数年、タイではゾウによる襲撃事故が増加しており、2024年は死亡者だけでも39人にのぼる。さらに野生のゾウが保護区の森を出て農地を荒らすなどの被害も急増している。その背景には森林開発による生息地の縮小や個体数の増加などの影響があるとみられ、ゾウが安心して暮らせる自然が失われつつあるというのだ。
政府や動物愛護団体も、保護区内に人工の水場や草地を作るなど森を出なくても暮らせる環境整備や、周辺住民への緊急通知プラットフォームの開発などを進めているが、いまのところ目立った成果はないという。
人間とゾウの「共生」。野生のゾウと共生できなくとも、お互いを思いやり、安心安全に暮らすためにはどう向き合うべきなのか考えなければならない。