HIV孤児支援から自立支援へ
バーンロムサイ“+アート”


「みんなの生きるをささえる」から始まった、HIV感染孤児の支援施設
「バーンロムサイ」。チェンマイからバンコク、そして日本へと広がるその原点を、
タイと日本それぞれで代表を務める美和さんと娘の美穂さんに尋ねました。

 

バーンロムサイとは、タイ語で「ガジュマルの木の下の家」。開園したのは、1999年のことでした。「縁あってジョルジオ アルマーニ ジャパンの方と会う機会があって。彼らに『自分たちの資金を社会のために役立てたい』と言われたんです。当時、HIVに母子感染したり、HIVで両親が亡くなって孤児が増加するというタイの現状を目の当たりにしていたので、それを支援する施設があったらいいのでは、と伝えたのがきっかけです。まさか自分が代表になるとは思ってもみなかった」と美和さんは大きく笑います。

設立1年目は苦難の連続。HIVによって10人の命が失われ、自信を失くしたこともあったと言いますが、その後は少しずつ治療法が見つかり、また美和さんの努力もあって死亡者はゼロ。“縁あって”から始まった支援は18年を過ぎ、当初にはなかった取り組みがどんどん増えています。そのひとつが、施設の隣で運営する

リゾートコテージ「ホシハナビレッジ」です。緑豊かな敷地内にある11のコテージは、すべて寄付から建てられたもの。「ここでは仕事や家事、育児など、日々の疲れを忘れてホッとしてほしいですね」と美穂さんが言う通り、癒やしを求め、国を越えてお客さんが訪れます。コットンやタイの伝統的な古布を使った服や小物・雑貨などハンドメイドの商品作りも開始。その狙いは、寄付に頼らない“自立”でした。

前向きに、やりたいと思ったら
やってみる。そうして今があります

「すべてにおいて、私たちには専門知識がなかった。だからこそ、支援施設やコテージ運営、プロダクト製作の世界に飛び込めたんです。裸の状態に、周りのみなさんが知識・技術・アイディアを足していってくれました。本当に助けられてばかり」と、二人は口を揃えます。

バーンロムサイを土台に、宿泊施設、縫製場、プロダクト製作、日本の財団設立……さまざまな挑戦を続ける中で今年、“アート”という柱を加えて次なるステージへと踏み出しました。

タイの法律上、18歳になったら施設を出ていかなければいけない子どもたちに対して、これまでに絵描きやダンサー、彫刻家、美容師など、さまざまな技能を身に付けたプロに会う機会を作ってきました。才能を開花させるために、そして施設を出た後、しっかりと自立した生活ができる術を身につけるために。

「今の時代はすぐに結果が求められがちですが、大切なことはそれだけじゃないと思うんです。子どもたちが迷い悩んだ時、ここでのいろいろな体験を思い出してくれたらうれしいですし、時間をかけて、自分が目指したい道を見つけてほしい」と美穂さんは言います。

その延長として見出したのが、“+アート”プロジェクト。アートを介してバーンロムサイの活動を発信するのと同時に、その枠を飛び越え、アーティストたちの活動を応援したい、と動き出しました。今年2月に、東京・銀座の老舗文房具店「伊東屋」でバーンロムサイの歩みを伝えるエキシビションを開催。10日間で2500人以上を集客し、来年2月にも開催が予定されています。また、ホシハナビレッジ内には、これまでお世話になったアーティストへ恩返しの意味も込めて、作品づくりや意見交換をする“アトリエ”を建設中。願うのは、“誰かのために、何かのために、未来のために”まだ見ぬ未来の出逢いが、ここから紡がれていきます。

生活を共にする子どもたちは、施設を出た後も家族のような関係が続いている


PROFILE
名取 美和 Miwa Natori
「バーンロムサイ」代表。1946年、東京生まれ。16歳でドイツに渡り、商業デザインを学ぶ。CM撮影のコーディネーター、通訳、カメラマン等を経験。1999年から現職に。

 


PROFILE
名取 美穂 Miho Natori
「NPO法人バーンロムサイジャパン」代表。1969年生まれ。デザイナーとして飲料や化粧品などのデザインを手がけながらバーンロムサイのデザイン全般を担当。2011年から現職に。

 


バーンロムサイ

皆様からの支援を募集しています詳しくはHPまで

HIVに母子感染した孤児のための支援施設。リゾートコテージ運営、プロダクト製作などさまざまに活動中。
[問い合わせ]
Tel: 053-022-245
Website: www.banromsai.jp


編集部より
「私はひとりじゃ何もできないからすぐに助けを求めるの」と笑う美和さん。「歩きながら軌道修正すればいい」と言う美穂さん。簡単なようでとても難しい……そんな二人のしなやかな考え・行動に、生きるヒントをもらいました


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