7mパットを入れられ、追い込まれる一進一退の攻防の末、流れてきた涙
—優勝おめでとうございます
中村 ありがとうございます。当時、6歳の里奈と出会った頃から目標にしていた大会なので、本当にうれしいです。この試合に勝つために頑張ってきました。9年計画の目標でしたね。
—劇的な結末でした
中村 最終日、トップの比嘉選手とは5打差の2位タイからスタート。しかし絶対に勝たせたかったので、スタート前に里奈に強く気合いを入れましたね。「絶対に勝てる。この試合に勝つために努力してきたんだから」と。そんなこと言ったのは今回が初めて。これまでの大会では、ボギーや失敗をしても笑顔で見守っていましたが、今回は終始里奈を睨みつけていました。里奈も僕の気迫を感じながらのプレーでしたね。
立松 すごく怖かった(笑)。でも、勝ってほしいと言う気持ちが伝わってきました。その気持ちを力に変えて、頑張ったんです。特にパッティングは普段以上に「絶対に入れる」という気持ちで打てました。
—最終日はトップと5打差。前半のハーフで2打差を縮めました
中村 比嘉選手の方は優勝を意識してか、プレッシャーがかかっているように見えました。里奈は「絶対に追いついてやる」と気合いも入り、普段よりもボールが飛んでいましたね。
立松 前半でなんとか2打差を縮めましたが、後半の残り9ホールで3打差は、正直追いつくのは難しいと思いました。だけど、9ホールに勝負を懸け、今まで練習してきたことに自信を持って、強い気持ちで臨みましたね。
中村 後半はまさに一進一退。11番ホールで里奈がミスしながらもなんとかパーで切り抜けたと思ったら、次のホールで比嘉選手がバーディ。4打差になったり、3打差になったりしながら、上がり3ホールを迎えました。そして、最終18番のパー5で、比嘉選手とは1打差。風によっては里奈は2オンが可能で、比嘉選手は3オン狙いとなるホール。里奈は2打でピン20ヤードくらいに運び、比嘉選手は3打でもグリーンに乗らず、ようやく4打目でグリーンに乗りましたが、7メートル以上残しました。一方、里奈は残り2メートルのバーディパット。心の中では「パーで勝てる」と思った瞬間、比嘉選手も意地を見せ、7メートルのパットを入れてきてパー。逆に里奈はその2メートルを入れないと負けなのですが、なんとかプレーオフに持ち込むことができました。
立松 比嘉選手がそのパットを入れ、正直「すごいな」と思いましたね。私の方は微妙な距離の2メートル。さらに下りのスライスラインでしたが、とにかく勝ちたいという一心で打ちました。
—プレーオフになったとき、どう思いましたか
中村 比嘉選手はショックですよね。2日間守ってきたトップの座を追いつかれたのですから……。でも、里奈にはこのチャンスを絶対に掴めと言いました。ただ、すぐにプレーオフ1ホール目で里奈がピンチになったんです。里奈が危ないパーパットを何とか決め、相手が外してパーでイーブン。胸をなでおろしました。
立松 「外したら終了。だけど、絶対次のホールに行く」と言い聞かせて、2メートルのパターを打ちましたね。
—そして再びプレーオフに突入です
立松 最後のパットは私が残り1・5メートルほどで、一方の比嘉選手は4メートルくらい。向こうは外してパーでしたが、私はなんとか入れてバーディ。「これが優勝パットなんだ」という気持ちで打ったのを覚えています。
—優勝したときはどんな気持ちでしたか
立松 勝って涙が出るのは初めて。自分の中で一番の目標にしていたし、最後まで諦めずに逆転優勝できたことがうれしかったです。今まで練習してきてよかったなぁと思いました。
中村 私も本当にうれしかったですね。口では言い表せないくらい。苦しい展開でしたが、里奈は自分の手で優勝を手繰り寄せましたからね。ずっと里奈と一心同体でやってきましたから、うれしさもひとしおです。
—これまで立松選手を教えてきたなかで、どれくらいのうれしさでしょうか
中村 それはもう今までで一番です。ただ、普通の人間は結果を出したら少しは満足するんです。しかし里奈は、表彰式後も「練習したい」と言い出したんですよ。僕もびっくりして、「まだやるんか?」って(笑)。それもうれしかったですね。コーチとしては、優勝よりもうれしいことです。
立松 今回の優勝がゴールではないので。これからがもっと大切。さらに大きな試合で勝てるように頑張りたいと思っています。休みたい? そう思うことはないです。試合が終わっても、すぐにクラブを握りたいくらい。
—立松選手が成長したところはどこでしょうか
中村 まだまだ技術は発展途上ですが、勝負どころで決められる強さは確実に成長しています。そして、飛距離も出るようになった。現在、飛ばすときは250ヤードくらい出ます。同学年の選手だと、、トップクラスになってきました。
—今後、体も成長することでスイングにも影響があると思います
中村 すべて想定内でスイング作りを行っているので問題はありません。現在は、まだ50点のスイングですので、あと50点アップさせます。
—憧れる選手は誰でしょうか
立松 ローリー・マキロイ選手です。スイングがとてもきれいで、飛距離も出て、ショートゲームも上手。試合中、ずっと笑顔を絶やさないところも好きです。
中村 マキロイ選手は、実に理にかなった体の動きをする選手ですね。里奈は女子だけど、将来はマキロイ選手やタイガー・ウッズ選手のようなスイングを目指しています。
—勉強の方はどうですか
立松 好きですし、学校も楽しいですね。語学ですか? 現在は英語、日本語、タイ語、中国語の4ヵ国語を話します。グリーンバレーの中に学校があるので、ゴルフと両立できる環境です。
—今後の目標を教えてください
中村 二十歳で日本の賞金女王。もちろん1試合1試合大切に戦いますが、1年おきとかではなく、5年後の賞金女王を目指して指導をします。アメリカ? 実は男子と違って、女子については日本でもアメリカとそこまで実力の差がないのです。それは賞金の額面においても。いきなりアメリカだと何もかも自分でやらないといけないので、ハードルが高くなります。そういう意味で、環境が整っている日本がいいわけです。
立松 体を作ることもそうですけど、まずは日本での賞金女王。最終的には世界を目指したいと思います。