“おもてなしの心”で 質を落とさず出店加速を目指します
舘野 純一 CEO
《プロフィール》
たての じゅんいち
■1962年生まれ。東京都出身。93年マツモトキヨシ入社、2009年マツモトキヨシホールディングス出向、同年子会社ユーカリ広告の社長、10年マツモトキヨシ執行役員、13年子会社ぱぱすの取締役商品部長、15年マツモトキヨシHD海外推進室、合弁会社設立準備担当部長、同年8月タイ赴任、セントラル&マツモトキヨシ設立、初代CEO就任。現在に至る。
■座右の銘:自分の言葉に嘘はつくまい、人を裏切るまい(アリスの歌詞)
■愛読書:WiSE
■尊敬する人物:松本南海雄会長、吉田前社長、イチロー
■趣味:ゴルフ、ショッピング
■バンコク行きつけの店:スクンビット・ソイ26にある日本食店
■愛用の腕時計:シチズンのソーラー電波時計(妻からの贈り物)
■愛用の鞄:ISSEY MIYAKE Bao Baoトート
■活用するウェブ:日経Value Search、日経電子版
海外1号店がタイにオープンしましたね
創業から80年が経ち、日本の少子高齢化による市場の飽和感があるなか、海外展開を本格的にしようと新たに海外事業推進室を立ち上げ、最終的に候補地となったのがタイでした。ヘルス&ビューティ(H&B)の市場成長率、親日度、競争環境、参入障壁など、あらゆる面を考慮しての判断です。進出を加速させたのは、同時期にタイ小売大手のセントラルグループから声がかかったことも関係します。
海外では、外資規制もあり、独自資本もしくは合弁(アライアンススキーム)など、議論検討を重ねました。セントラルグループは、小売業において欠かせない「商品」と「立地」を兼ね備え、さらには、物流、受発注を処理する「ITインフラ」もあり、初期投資を抑え、効率的に海外初進出ができるという側面も期待できました。互いに、創業一族が経営するファミリー企業であり、トップ同士が親密となったことも幸いでしたね。現在は、ファミリーマートといったセントラルグループ内の他の企業とも連携を図っています。
進出後の反響はいかがでしょうか
1号店は、MRT(地下鉄)パホンヨーティン駅近くのセントラルラップラオに出店しました。当初は、海外初ということで一からブランディングをと考えておりましたが、オープン日には400人以上の長蛇の列ができ、取材も連日。思った以上にニッポンの〝マツキヨ〞として認知されていることに驚き、かつ喜びを感じました。
また、来店するお客様も、美と健康への意識が高く、日本商品も含めた、より〝新しく良い品〞を求める方々が多く、日本同様もしくはそれ以上の品質の高い商品を揃え、提供できるよう、開店後も日々、模索しています。
日本と違いはありますか
店舗は、H&Bを主軸に構成しております。残念ながら、得意の医薬品や健康食品、サプリメントといった商品は、輸入規制が厳しく苦戦中です。そこで、ビューティやトイレタリー商品で差別化を図る努力をしています。店舗あたりの商品数は約1万点です。日本商品の品揃えは、タイでもトップクラスだと思います。
今後の出店攻勢について
先ずは事業基盤の構築と商品物流の効率化を図る点に注力しなくてはいけません。2016年度は、数店舗の出店計画を立てています。そこでのお客様の反応をキャッチしながら店舗パフォーマンスを最適化した後に攻勢をかけようと考えています。
立ち上げ責任者として携わったわけですね
毎日がハプニング続きでした。国が違えば、言語、文化・風習が違うといいますが、本当に学ぶことが多かったですね。いかに、日本では洗練されたシステム、仕組み、熟練スタッフ、協力会社のもとで守られていたかを痛感しました。
タイの生活はいかがでしょう
出張ベースで来ていましたので、ある程度の地の利はありました。ただ、まさか自分が担当するとは夢にも思っていませんでしたよ。知っていれば、もっと真剣にタイ語を勉強していましたね。
立ち上げ責任者=トップとしての責務について
店舗スタッフの教育は、日本とはまったく異なり、毎日が戦いですね。とにかく大事なのは根気だと思い、とにかく時間をかけてゆっくり、丁寧に伝えています。郷に入れば郷に従えとは言いますが、日本の〝おもてなしの心〞だけは譲れませんから、粘り強く理解してもらう努力の毎日です。その際に最も大事にしている点が「私たちは、会社から給与をもらっているわけではない。お客様から預いています」との持論を伝え続けています。
休日の過ごし方は
主夫です。単身赴任なので、妻のありがたみを実感しています。休みの日は、掃除・洗濯を行い夕方からはマッサージに行き、部屋、カラダ、心のメンテナンスに努めています。つまり、次週を新たな気持で迎えるための準備ですね。ただ、店舗は土日も空いていますので、店舗視察と競合店周りも欠かせません。
マツキヨとは
感謝の一言です。鍛えられ、育ててもらった恩ある会社です。創業家(松本家)に拾ってもらった感謝を忘れず、家族を幸せにさせてもらっていることを忘れたことはありません(本音です)。
編集後記
〝マツキヨ〞でお馴染みのドラッグストア「マツモトキヨシ」。業界トップとして、過去20年間あまり君臨し続ける、まさにドラッグストア界の雄。得意のエリアドミナントとスケールメリットの拡大で店舗数を増やし、昨今はインバウンド需要で潤い、同社に死角は見当たらない中、満を持して海外初出店先として選んだ地が〝タイ〞。同社グループの威信をかけた第一歩の責任者として降り立った舘野氏。サラリと「恩ある会社」と自社を讃える言葉の裏には、会社からの厚い信頼度が伺える。(北)