タイ進出を目指す日系企業の一助へ
バンコク駐在員事務所所長 所長 工藤 裕徳
《プロフィール》
1966年生まれ。大分県出身。89年明治大学商学部卒業、2006年筑波大学大学院前期博士課程修了、修士(法学)14年筑波大学大学院後期博士課程満単位取得退学。1989年安田信託銀行(現・みずほ信託銀行)入行、その後、Alico Japanを経て、2002年より大和証券に勤務、13年大和証券バンコク駐在員事務所 所長
「M&Aでタイ進出を目指す日系企業の一助となります」
―タイでの事業領域を教えてください ご存知のとおり、現地法人格を持たないためタイの法律上、株式売買やデリバティブ(金融派生商品)といった営利活動はできません。
主な業務は日本の企業や投資家が求める“情報収集”ですね。タイと大和の関係でいうと、2013年2月にタイの大手証券会社「タナチャート証券」と業務提携を結び、同社からアナリスト・レポートを提供してもらい、日本および海外の機関投資家に対し、タイ株式や金融商品の提案をしています。
―法人格を取得して、実際の株式売買業務などはしないのですか
直接、弊社がタイで窓口となって売買・取引をやる場合は、相当な投資が必要となります。海外拠点で本格的に業務を行うには、まず多くのアナリストを育て、抱える必要があります。またシステム構築に莫大なコストが掛かるんです。タイ市況をもう少し見極める必要があります。―日本の市況は、回復しましたが、現在のタイはいかがでしょう
日本の企業は、長く続いた不況を乗り換える過程であらゆる無駄を削り、経営を筋肉体質にさせてきました。そうしたなかで、景気が回復し、一気に “金余り状態”となっているようです。潤沢なキャッシュを抱えたことで、シュリンクする国内市場を抜け出して海外に打って出る企業が増えています。おかげさまで、M&A(企業の合併・買収)を模索する企業からの情報収集依頼が後を絶ちません。
一方で、タイの市場はデモの影響で外国人投資家による売り越しが続いていましが、デモが続くなかでも4月頃から買い越しに転じて、現在は落ち着いている状態です。軍政となってからは、株式市場はトップダウンで物事が決定するスピード感を歓迎しているようです。今後の道筋も発表され、下期から経済回復が図られると言われています。
―日系企業によるタイ企業のM&Aの状況は
これまでタイのM&A市場では、大きな売りのマーケットが存在しませんでした。経済成長を続けてきたことも要因でしょう。ところが、成長スピードが鈍化し始めたことで、資金繰りが厳しくなってきたタイの企業も出てきて、海外企業にとってシナジー効果が期待できると判断され始めたようです。まずは、日系企業の一助となるよう情報収集業務に注力します。
―タイに進出するきっかけとして、M&Aは有効だと思います。ただ、すでにタイには多くの日系企業が進出済ですが
仰るとおり、タイには大手日系企業が進出済みですが、中心は重厚長大産業の製造部門でした。現在、日本から依頼が多いのは、非重厚長大産業、サービス業といった企業で、タイを製造拠点としてのみではなく、東南アジアを巨大マーケットとみた場合の中心拠点として位置づける傾向が強くなってきています。一から始めるのではなく、すでにノウハウや販売網をもつタイの企業との提携、出資、買収を検討する企業が増えているのです。
―御社にとって、タイは将来有望な国ということですが、赴任されていかがですか。
タイには2013年の5月に来ました。それまでは東京で勤務し、過去に、フィリピンへの長期出張はありましたが、海外赴任は初めてです。タイには、大学4年生のときに旅行で来ましたが、当時は、まだ現在のような都市として発展しておらず、短期間での変貌ぶりに驚きましたね。―マネジメント面で苦労はありませんか?
私以外はすべてタイ人スタッフのため、赴任当初はコミュニケーション面で難しさを感じましたが、赴任から1年が経過し、組織的にもまとまりつつあります。戦略的にも、何をすべきかが見えてきました。そのうちのひとつが、M&Aというわけです。今年は、情報収集センターとしての役割に注力して、組織強化と拡大を図りたいですね。
―大和証券という会社について
私は、中途入社でもともと銀行員でした。過去と比べてしまいがちですが、(銀行時代よりも)大和は風通しがよく、自由闊達な雰囲気が心地いいです。やるべく仕事に邁進していれば、自由にさせてもらえる土壌があり、アグレッシブに仕事ができる環境が整っています。今では、天職だと感じながら証券マンとして歩んでいます。学生時代からの目標のひとつでもあった海外赴任をしているいまこそ、最大のチャンスと捉え、日系企業のタイ進出の一助となるよう責務を果たしたいですね。
編集後記
国内総合証券トップクラスの「大和証券」。メガバンクを母体とする銀行系とは一線を画し、独自の事業戦略が持ち味だ。また日本では珍しい、早くから女性登用を進め、生え抜きの女性取締役を誕生させる、人材重視の経営方針は有名。日本は、アベノミクス効果で活況を呈しているが、伸びしろの大きい東南アジアや、その中心国タイへの期待も大きい。工藤所長は「プロパーではない」と言うが、元バンカーとしての経験と実績があるからこそ、アジアの雄“タイ”を任されたのだろう。(北川 宏)