両祖父が起業家であり、自らの裁量と責任が問われるビジネスの場を、幼い頃から間近に見て育ってきた糸永真理愛さん。「いつしか自分も起業を」と抱いた夢を実現したバンコクで目指す、“タイに根ざした組織づくり”とは。
「タイ人は離職率が高い」。タイに進出する日系企業の間で浸透するそんな認識に、疑問を抱いていた真理愛さん。それは、タイ人だけの問題なのか……?。
「辞めるということは、スタッフと企業に何かしらの齟齬があるから。タイ人だから仕方ないで終わるのではなく、タイで働くなら、タイ人に適した組織にシフトする必要があると感じていました」。
そのために、タイ人がどんな働き方を求めているのかをリサーチ。“資質(才能)”を客観的に分析するためのメソッド「ストレングスファインダー®」を元にしたアンケートを、1000人以上に実施。1つの突出した特徴に納得したのだそう。
「大部分のタイ人は『人と繋がりたい』『いい関係性を築きたい』という人間関係構築力が強いことが判明しました。加えて、人生の優先順位としてプライベートを重視するため、仕事に費やす時間は限られています。だからこそ、その中で成果を出せる仕組みが必要だと改めて感じました」。残業も辞さない日本の風習ではなく、タイの風土と資質に合わせた思考の転換を―――。
そうして2017年9月、真理愛さんは人事コンサルティング事業を軸とした「Fifth Consulting」を設立。自社も含めた日系企業で働くタイ人が、今まで以上に活きる制度づくり、マネジメント方法、相互理解を目指し、第三者の立場からサポートを始めました。
真理愛さんが代表を務める「Fifth Consulting」のメンバーと共に
人や組織の強みに集中し、未来を証明したい
目指したのは、人材と企業の間に立ちながら、一歩内側に入り込んだ提案です。真理愛さんが企業の現場を見て驚いたのは、採用担当者のほとんどが採用未経験という事実。そのノウハウを知らず、人材不足を補うだけの場渡り的な採用が起きていると、問題点を口にします。
「採用者側が、伝えたい想いや企業理念を強く持っていても、言葉や関係性の未構築によりコミュニケーションがとれなかったり。逆に、採用された側も自分が何を求められているかわからず、軋轢が生じたり。そんな両者の間に入り、お互いの意思を第三者として中継できる存在に、そして皆さんの“右腕”に私たちがなれれば」と言葉に力を込めます。
小規模で未熟なことは重々承知。真理愛さんは、スタッフに経験を積ませるためどんどん外に出る機会を増やし、毎日のレポートや週1回の面談などによって現状を客観的に評価する場を設定。コミュニケーションの量が、やがて質に変わることを知っています。 「組織は一朝一夕で出来上がるわけではありません。段階を踏んで、私たちスタッフ側もしっかりと実力をつけていきたいですね」。
起業から1年半を経た今、「タイ人は、与えたら与えた分だけ返してくれる」と手応えを実感。だからこそ、もっと“タイに根ざした組織づくり”を伝えていきたいと、決意を口にします。また並行して、3月からはタイにいる女性を対象に、「女性のライフキャリア」をテーマにしたイベントを開催予定。それぞれのキャリアを共有し、サポートし合えるプラットフォームの場をつくっていきたいと、笑顔を見せます。
働き尽くめの日本時代、偶然入ったタイ人アーティストの個展が、タイへの扉を開いてくれたという真理愛さん。「タイで働いている方が100万倍、生きていると実感します」。そう自身がタイに救われたように、新たな組織づくりの視点から、真理愛さんもタイの人々を支えていきます。
PROFILE
糸永 真理愛
Maria Itonaga
1986年、東京都生まれ。起業家の祖父の影響により、幼少期からビジネスに強い関心を持つ。高校時代にニュージーランド留学、大学時代にアメリカ留学を経て、新卒で日系人事コンサルティング企業に入社。2015年、駐在員としてタイ人材企業に勤務し、17年9月に起業。リフレッシュ方法は、人に会う・マッサージ・絵を描くこと。
Fifth Consulting Co., Ltd.
日系企業をサポートする人事コンサルティング
採用・育成・評価の3本柱の人事コンサルティング事業と会社設立、ビザやワークパーミット、その他ライセンス取得の設立支援事業。Online Coaching、各種セミナー開催。その他、詳細は下記へお問い合わせください。
[問い合わせ]
Address: 51/4 Moo7, Pakchong, Ban Chom Bung, Ratchaburi
Telephone: 064-161-7224(糸永)
E-Mail:5th@5thconsul.com
Website:http://5thconsul.com
編集部より
「社長の思考・行動を近くで見たい」と真理愛さんが新卒で入ったのは、大手企業の人材育成を支援するベンチャー企業。貪欲に仕事に向き合うその根幹には、常に“人と組織づくり”がありました