タイで暮らすことが決まった時、医療や薬事情に不安を抱いた記憶は
ありませんか? 24歳で「ブレズ薬局」を開業した飯田直樹さんは、見知らぬ
医薬品に戸惑う日本人に向け、日本語で相談できる場所を提供しています。
飯田さんが初めて起業したのは、日本の大学時代。インターネット上の管理システム販売を行っていた時、あるECサイトを見たことが契機となって、タイに移住することになったのだそう。
「タイ雑貨を販売するECサイトを知人が利用していたんですが、機能も使い勝手も全然良くなくて(笑)。これで経営が成り立つなら、自分でもっといいサービスを作ってみたいと思ったんです」。2011年1月に初めてタイを訪れ、その2カ月後には現地での生活を開始しました。
「ダメだったら帰ればいいと思っていましたし、悩んでもどうにもできないことに時間を使うのが昔から嫌なんです。周りからは悩みがなさそうと言われるんですが、悩む時間が極端に短いだけ。解決できるか、できないか。その時々で何をするべきか。ゴールが決まったら、あとは行動するだけですから」。
そう淡々と話す飯田さんが「ブレズ薬局」をオープンしたのは、2012年のこと。来タイ直後から始めた日本向けECサイトで、タイの鞄や靴、時計など幅広い商品を販売。特に反響があった健康・医薬品に可能性を感じ、開店に至ったのだとか。こうして飯田さんは、観光客とビジネスマンが行き交うアソークで、1号店をスタートさせました。
アソークにある1号店でスタッフと共に。タイ語で冗談を言い合うなど仲の良さが伺えます
タイは僕を育ててくれた国。
関わりは一生続きます
ローカルから世界的なチェーン店まで多くの薬局が集まるバンコクで、飯田さんが勝負するのは“サービスの質”。他店との違いを出すためにも、接客態度から日本の細やかな気遣いをスタッフに伝えています。「タイだから許される」ではなく、誰もが心地いいと思えるサービスを――。ブレズ薬局の存在は瞬く間に日本人在タイ者の間で浸透し、今では誰もが知るバンコクの“よろず屋”的存在に。
飯田さんは多くの日本人に接客することで、タイの薬に対する誤解に気づかされたと言います。「タイの薬は、効き目が強すぎて怖いといった声をよく聞くんですが、それは欧米など世界基準に則っているから。体格の大きい欧米人と同じ量を摂取したら、効き過ぎるのは当然です。日本語でしっかりと説明することで、誤解を少しでも解消していきたいですし、それが一人でも多くの人の安心に繋がれば何よりです」。
そんな想いを感じ取ってか、ブレズ薬局を訪れる人は風邪や食あたりといった体調不良の人から、石鹸やシャンプーといったお土産を求める人までさまざま。商品購入に加えて、タイの観光情報を聞かれたり、世間話をしたりが日常茶飯事だと飯田さんは笑います。
「今は薬局をやっていますが、それだけにこだわっているわけではありません。2015年にはクリニック事業、ローカルに向けた薬局を始めるなど変化してきました。ただ最近、少し自分に天井が見えてきたと感じる部分もあるんです。だからこそ、もっと自分に刺激を与えて、“思い込み”の範囲を広げていきたい」。
経営者になって10年目。30代に突入した飯田さんは、MBA取得に向けて始動。同時に国内30店舗展開、タイ国外への事業拡大、新事業立ち上げなども画策中。けれど、自身の基盤を築いたタイとの関わりは、一生続くと明言します。「資金でも働く場の提供でも、タイで事業を続けることが、今の僕がタイへ還元できることだと思う」。ベクトルは常に斜め上。飯田さんは“今”を更新し続けます。
PROFILE
飯田 直樹
Naoki Iida
1988年生まれ、神奈川県出身。大学3年時に、インターネットの管理システム販売会社を設立。2011年、初めて訪れたタイで起業を決意し、移住。12年5月、「ブレズ薬局」を開業し、医薬品をはじめ日用品など幅広い商品を取り扱う。15年には「ブレズクリニック」もオープン。リフレッシュ方法は、運動で汗を流すこと。
ブレズ薬局
トンロー・プロンポン・アソーク
「日本語でご相談ください」
医薬品をはじめ、石鹸やシミ取りクリーム、男性用育毛剤・精力剤など種類豊富な商品をラインナップ。現在、バンコク都内・近郊を含めた12店舗を展開。
[問い合わせ]
Tel: 092-223-1251
Email: pharmacy@blez-web.com
Website: https://blez-web.com
編集部より
年に一度は大病にかかるという飯田さん。自分の体の限界を超えた証拠だと冷静に分析しながらも、「薬の効果を確かめる、またとないチャンス」と話す仕事脳に、思わず笑ってしまいました